14.7-01 侵略1
この日、レストフェン大公国で大きな事件が起こる。
ゴゴゴゴゴ……!!
東の海の彼方から、巨大な何かが現れて、国の上空を通過していったのだ。そう、"何か"だ。
「何だありゃ……」
「空が歪んでる……?」
「でかい魔物か?」
「俺、疲れて目がかすんでるんだろうか?」
空に浮かぶ雲が、まるで質の悪いガラス越しに眺めたかのように大きく歪む様子を見て、人々は口々に推測を口にした。中には世界の終わりが訪れたと祈りを捧げる者までいる始末。空の歪みを見た人々は、小さくない混乱に襲われていたと言えるだろう。
混乱が広がった原因には、"何か"の飛行経路にも原因があった。国の中で最も人口密度の高い公都の上空をわざわざ通過していったのである。しかも妙にゆっくりと。その際、公都の家々には、ガタガタという重低音が響き渡ったのだから、そこに住む人々にとっては、大きな迷惑と感じるどころか、恐ろしくて仕方がなかったに違いない。
空を歪ませていた"何か"はそのまま風に逆らって公都上空を東から西に抜けると、不意に速度を上げてどこかへと消え去った。まさに未確認飛行物体——UFOである。国の歴史書に謎の現象として載ったのは言うまでもないだろう。
その後、UFO(?)は、公国の中央より西側に広がる森へと飛行を続けた。そして、森の中にそびえ立つ中央魔法学院へと程なくして辿り着く。
学院内でも、UFOの到来は、当然のごとく騒ぎなった。UFOが到達した時点では、学院内は授業中。生徒たちが授業を受けていると、ガタガタと窓や机が踊り始めたのだから、授業どころではなかったに違いない。
睡眠不足や精神的ダメージでゲッソリとしていたミレニアも、授業こそ見に入らない様子だったが、流石に学院全体がガタガタと震えると、気が気ではない様子で慌てていたようだ。結果、彼女を含めた生徒たち、あるいは教師たちが、何事が起こったのかと慌てて廊下に出て、そして窓から外の景色を見渡した。
その結果、分かった事は、空間を歪ませる大きな何かが、グラウンドに鎮座していたこと。その謎の物体は、学院内の大きなグラウンドに入りきらず、一部は森の上空まで学院の外に突き出しているほどだった。
そんなUFOの姿を見て皆が思う。……何だ、これは、と。
一方で……。
慌てていたのはワルツたちも同じだったようだ。ただし、彼女たちの場合は、違う理由で慌てていたようだが。
「き、来ちゃったわよ……」
「来たね……」
「何をしに来たのじゃ?あやつら……」
『姉様……。もう少し静かに来られないのですかねぇ……』
「ポテンティア様のお姉様……?」
「ちょっ……な、何なんですか?!あれは!」
ワルツは現実逃避をするように、グラウンドを見ずに机を見つめ。ルシアとテレサは、やれやれと言わんばかりに呆れたような表情を浮かべ。ポテンティアは虫の姿のまま、嘆くように額(?)に手を当て。アステリアはポテンティアの言葉に目を丸くした。なお、教師のハイスピアは、事情を知らされていなかったこともあり、突然の出来事にどう対応すれば良いのか分からない様子で、その場で右往左往していたようだ。
そんな中、冷静だった(?)者がいる。
ズササッ!!
ガラガラガラッ!!
「ワルツ先生!来たようですね!」
大公ジョセフィーヌである。彼女は空を歪ませる何かがグラウンドにやってきた途端、それがワルツと繋がりのあるものだとすぐさま気付いたのだ。先日、ミッドエデンの関係者が直接現れて、近い内に支援物資を届ける、という話をしていたこともあり、早速、物資を届けに来たのだと分かったらしい。
サッ……
しかし、ワルツは隠れた。背格好が小さくなっていた彼女にとって、教室にあった机は姿を隠すのに最適。ジョセフィーヌはワルツが見つけられず首を傾げてしまう。
「……あれ?ハイスピア先生?ワルツ先生はどちらに?」
「えっ?あれ?おかしいですね……。さきほどまで授業をされていたのですが……」
確かについ数分までまではそこにいたはず……。ハイスピアが首を傾げていると、廊下にいた生徒たちの方からざわめきが大きくなった。
というのも——、
ウィィィィィン……ガションッ!!
——空間を歪ませていたUFOの扉(?)が、大きく開いたからだ。それは大きな扉——いや上から下向かって開くハッチだった。縦横20mはあるだろう。
そしてその中から現れたのは——、
コツコツコツ……
「ここがワルツさんたちの通う学院ですか……」
「…………」にゅる
——白衣を纏った狐の獣人と、ウネウネとした触手を大量に伸ばす黒い物体。ようするに、カタリナとシュバルの2人だった。




