14.6-39 支援39
ポテンティアの正体を知ったアステリアが、自身の正体をワルツたちには話さないようにと、ポテンティアへと頼み込んでから30分後くらいの話。
学院にある女子寮の屋上では、今夜も寝られなかったミレニアが夜風に当たっていた。昨日の昼間も変な時間に気を失ったために、夜に寝ようとしても眠気が完全に消し飛んで寝られなかったのだ。
「……私……病気なのかしら……」
3日間連続で気を失うなど、到底普通とは言えない……。ミレニアは自分が病気なのではないかと疑っていたようである。特に、とある人物を思い出した瞬間、鼓動が早まる症状などは、何よりミレニアの不安を掻き立てていたようだ。
「本当にお医者様に診て貰った方が良いのかしら……」
訳の分からない感情や症状に悩まされていたミレニアは、本気で医者に診て貰うべきか否かを悩んでいた。祖母で学院長であるマグネアなどからも、毎日のように気絶するのは身体に何か問題があるからなのではないか、と指摘を受けていて、医者の診察を受けるようにと言われていたことも理由の一つだ。
問題は学院に医者がいないことだ。学院から最寄りの場所にいる医師は、3日離れた場所にある公都にいるのだが、現状、学院の関係者が公都に行くというのは危険な事で、おいそれと行くわけにはいかなかったのである。それ以外の場所となると、片道1週間はかかる町になるが、もしも受診しに行くとなると授業から取り残される可能性を否定できなかった。転移魔法が使えれば、何と言うことはない距離なのだが、残念ながら学院内にいる転移魔法使いは、現状、ジョセフィーヌの情報収集に付きっきりで、ミレニアのことを医者に連れて行けるようなフリーの状態の転移魔法使いはいなかったのである。
医者に診て貰いに行かなければ、病(?)が進行する可能性があって、しかし、医者に行けば授業に遅れが出る可能性がある……。そんなジレンマに襲われていたミレニアだったが、いよいよ覚悟を決めようとしていたようだ。選択肢など、悩む以前に、そもそも1つしか無いのだから。
「……まぁ、診て貰うしかないわよね……」
問題はいつから休学して、受診に向かうべきか……。ミレニアが具体的なスケジュールを決めようとした——そんな時の事だ。
『おや?このような時間にお外を出歩いていては、身体に障りますよ?ミレニアさん』
どこからともなくそんな声が聞こえてくる。少年のものとも、少女のものとも言えない、中性的な声だ。
対するミレニアは、その声の主を知っていた。
「こ、この声はっ!」
名も知らぬ"少年"の声。その姿を思い出すだけで、何故か鼓動が速くなってしまう声……。ミレニアは自然に笑顔を浮かべて、"少年"の声が聞こえてきた方向へと振り返った。
しかし、その先には誰もおらず——、
「……え、えっと……あれ?私……やっぱりおかしくなっちゃったのかしら……」
——ミレニアが浮かべていた笑顔は、急激に闇へと溶けていった。
しかし、幻聴というわけではなかったらしい。
『何を仰います。ミレニアさんは何もおかしくはなっていませんよ?』
再び"少年"から、明確な声が飛んできたのだ。
それを聞いたミレニアの表情には笑顔が戻ってくるものの……。しかし、彼女の表情はすぐに曇ってしまう。"少年"の声は聞こえるものの、やはりその姿はどこにもないからだ。
「あの……あなたはどこに……」
『あぁ、すみません。今は姿を見せることが出来ないのです』
「姿を……見せられない……?」
『えぇ。よくあるではありませんか?悪い魔女に魔法を受けたせいで、醜い姿になってしまうという話。それに近い事がありまして、ミレニアさんの前に姿を見せることが出来ないのです』
「そ、そんな!」
『それにここは女子寮。僕のようにどこの戦艦……おっと失礼、どこの馬の骨とも分からない輩が出入りして良い場所ではありません。声だけの呼びかけになってしまうことをご容赦下さい』
「大丈夫なのですか?!」
『大丈夫……あぁ、僕の身体のことですね。えぇ、大丈夫ですとも。姿はちょっと見せられませんが、至って健康ですので。それよりもなによりも、僕はミレニアさんの事が気になって仕方ありません』
「わ、私もあなたのことが気になって……」
『……?えっと、事情がよく分かりませんが、何か寝られなくなるような……困りごとでもあったのでしょうか?』
ポテンティアはミレニアを心配した様子で問いかけた。そんな彼の本心的には——、
『(そこにいられると、物資の輸送が出来ないので、早く寝ていただけないでしょうか?)』
——と言いたかったようだが、彼は紳士。何か悩んでいる様子のミレニアの話を聞くことにしたようである。




