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14.6-38 支援38

 その夜、アステリアは一人、自宅を抜け出して、地上にやってきていた。彼女が目指す目的地は、地上にあった村——ではない。


『すぅぅぅ……はぁ……。やっぱり森の中は良いですね』


 アステリアがいたのは森の中。そこで彼女は服を脱ぎ捨て、元の大狐の姿に戻っていた。地下の自宅が窮屈というわけではないが、元々、森の中で暮らしていた彼女にとしては、たまにこうして森の中にやってきては散歩を楽しむのが趣味になっていたのである。彼女が夜行性だったことも、夜に散歩を楽しんでいた理由の一つと言えるかも知れない。


 彼女は、その大きな身体に似合わない軽快なステップで、森の中を駆けていった。途中、魔物の気配を感じるものの、元の姿に戻った彼女にとって危険があるような魔物は活動しておらず、多少は警戒しつつも、彼女は散歩を楽しみ続ける。


 村から出た彼女は、近くの湖の畔へと走り、その外周を反時計回りに回って、学院が見えたところで、真っ直ぐに学院へと走り始めた。


 しかし学院には行かず、学院と一定の距離をとったままその周りをグルリと回る。


『(やっぱり、大きなお城みたいです)』


 山の上にそびえ立つ学院の姿が、まるで物語に出てくるような大国の古城のようだと思いながら、アステリアは森の散歩を続けた。


 そして、帰路に付こうとしたとき、彼女は何か不思議な気配を感じることになる。


『……?』


 最初は何なのか分からず、とりあえず警戒しながら森の中を進むアステリアだったが、次第にその気配が大きくなり、終いには、まるですべてを圧倒するかのような気配がアステリアに襲い掛かる。


『?!』


 その圧倒的な気配を前に、アステリアは尻尾を股に挟みながらその場で小さくなってしまう。一体何が起こったのか……。彼女が周囲を見渡しても、魔物の気配や動きがあるわけでもなく、ただただ黒い森がどこまでも続いているだけだった。まるで、目に見えない化け物が、自分を食べようとして近くまで迫っているようで、彼女は前にも後ろにも動けなくなってしまう。


 大声を上げれば、誰かが助けに来てくれるだろうか……。どうにもならなくなったアステリアが、最終手段に出ようかと考えた時の事。


『……おや?随分と大きな狐さんだ』


 空から声が降ってくる。


 予想だにしない出来事に、アステリアは耳をピタッと倒しながら空を見上げた。するとそこからはいつの間にか星たちの姿が消えて、真っ黒な空が広がるだけ。曇天でも、森の木々で隠れていたわけでもない。空が真っ黒になっていたのだ。


『ひやぁ……』


 意味不明な状況の中、アステリアがこれ以上ないくらい小さくなっていると、再び声が飛んでくる。ただし、今度は空からではなく、目の前から。


『誰かと思ったら、アステリアさんではありませんか』


『……ふぇ?』


 良く聞き覚えのある声に、アステリアは閉じていた目を片目だけ開けて前を見た。するとそこには、カサカサと動く、黒い小さな物体の姿が……。


『ポ、ポテンティア様……?』


『やっぱりアステリアさんでしたか。その姿はまだ1回しか見たことが無かったので、もしや別の狐さんに声を掛けてしまったかと思いましたが、人違い——いえ狐違いじゃなくて良かったです。ところでどうかされたのですか?こんなところで蹲って……。もしや足かどこかを怪我されたのですか?』


 飛んできた声がポテンティアのものだと察したアステリアは、狐の姿のまま、ハァ、と深く安堵の溜息を吐いた。しかし、自身を押しつぶすような気配は未だ消えておらず、彼女は伏せたまま、ポテンティアへと問いかける。


『ち、近くに何か変なものはいないですか?』


『変なもの……?ふむ……強いて言うなら、僕くらいのものです』


『い、いえ、ポテンティア様ではなくて、もっとこう、すっごく大きくて、私なんかパクッて簡単に食べてしまうくらいの大きな魔物のような……』


『えぇ、ですから、それ、僕です』


『……えっ?』


『怖がらせてしまい申し訳ございません。アステリアさんが感じられていた気配は恐らく——』


 ポテンティアがそう口にした瞬間、空の影に大きな変化が生じる。


『そ、空が動いて……』


 聞こえるか聞こえないかの低音を響かせながら、空の影が移動を始めたのだ。そしてアステリアの目に見えてきたのは、木々の向こう側に浮かぶ無数の星々と、その星空を食らうように空に浮かぶ黒い影の姿だった。


『あ、あれは……』


『お初にお目にかかります。ミッドエデン共和国エネルギア級2番艦の空中戦艦ポテンティアです。以降、お見知りおきを』


 空から降ってきたのはポテンティアの声を聞いて、アステリアは思う。


『(変身してたのって……私だけじゃなかったんですね……)』


 と。


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