14.6-36 支援36
取り付く島も無く帰国することを拒否したワルツを前に、ユリアは残念そうに肩を落とす。
「やはり、国には戻られないのですね……」
「今はまだ戻る時じゃないわ?この国で色々とやらなきゃならないことがあるから」
「……承知いたしました。ワルツ様やルシアちゃん、テレサ様のお帰りを心からお待ちしております」
ユリアにはそう口にすることしか出来なかった。ワルツたちは基本的に自由奔放。国の発展に貢献してきた重要人物ではあるものの、本人たちが言うとおり、ミッドエデンの政府高官ではなく、ありふれた一般国民でしかないのである。そんな彼女たちを拘束するとなると、犯罪者として扱うか、あるいは真逆の王族に準ずる扱いをしなくてはならないが、そんなことをすればワルツたちがより一層、ミッドエデンから離れていってしまうのは確実。ゆえに、ユリアは強く言うことが出来ず、ワルツたち自身に選択を委ねるしかできなかったのである。
対するワルツは、ユリアたちが抱えていた懸念に気付いていなかった、というわけではない。
「まぁ、前科があるから信じて貰えないかもしれないけれど、このままどこかに逃げるような事はもうしないから安心して?今は……そう、時間が必要なのよ。いまやっていることが一段落したら必ず帰るから、それまで待っていて欲しいの」
「はい、存じております。我々、ミッドエデンはいつまでもワルツ様方のことをお待ちしております。お好きな時にお帰り下さい」
ユリアはそう言って、この話を切り上げた。今の彼女にはそれしか言える言葉が無かったのだ。
と、そんな時のこと。
「料理、出来たぞー」
タイミング良く、狩人の料理が完成した。
◇
「お、おいしい……!」わなわな
「ははっ!そう言ってもらえると、料理人冥利に尽きるよ!まぁ、あだ名は狩人なんだけどな!」
アステリアは狩人の料理を食べた瞬間、目の色を変えた。狩人が作ったのは、ミッドエデンから持ち込んだチーズを使った鳥肉グラタンで、アステリアとしては初めて食べる料理だったのである。ちなみに"鳥肉"というのは言わずもがな、地上最強の魔物ヤマニク(小鳥)の事である。
「この表面がカリカリとしていて、中がトロトロとしているお料理は何なのですか?!もはやこの世の食べ物とは思えません!……はむっ!あちち……」
「料理名はグラタンで、表面にかかっている黄色いやつはチーズだ。もしかして、この国にはチーズが無いのか?山羊の乳を発酵させて作る発酵食品だ」
「……やぎ?」
「……なぁ、ワルツ。この国にチーズとか山羊とかいないのか?」
「見たことはないですね。どうも山羊を始めとした動物や魔物たちというのは、この国の人々にとっては強すぎる生き物らしくて、肉とかも滅多に出回らないそうです」
「そ、そうなのか……そうなのか!」ぱぁっ
「……狩人さん、今絶対、この国の魔物も狩ってみたいとか思いましたよね?そんな感じのことが、顔に書かれています。えぇ、それもハッキリと」
魔物が強いかも知れない、というワルツの発言を聞いた後、狩人の目が何故か嬉しそうに輝いた。どうやら、先祖代々伝わる"狩人"としての血が、彼女の中で騒ぐらしい。
そんな狩人に向かって、ユリアは何も言わずにニッコリとした笑みを横に振った。要するに狩り禁止だ。その瞬間、狩人の表情は、絶望の一色に染まる。
「ちょ、ちょっとくらい良いじゃないか?」
しかし、狩人のその願いには誰も首を縦に振らず……。彼女のテンションは急激に下がっていったのであった。




