14.6-34 支援34
「やっぱり変わんないなー。このこぢんまりとした感じ」
「広すぎても、なんかソワソワしてくるだけじゃないですか」
「あぁ、こぢんまりしているのは嫌いじゃないぞ?実家みたいに広々としていると、ものを一つ取りに行くにも面倒になるからな!」
「狩人さんのお家、大きいですからね……」
ミッドエデン南部、サウスフォートレスにある狩人の実家——もといアレクサンドロス伯爵家を思い出しながら、ワルツは相づちを打つ。ちなみにワルツたちが地下空間に作った家は、6人入るとギュウギュウ、とまではいかないが、それなりに手狭になるようなサイズである。
そんなワルツの新しい自宅のキッチンを借りて、狩人が夕食の準備を始めた後。食卓で雑談をしていたワルツに対し、ユリアが問いかけた。
「ワルツ様。ちなみにお聞きしますが……このお家がすべて、ではありませんよね?」
「えっ?すべてって……どういう意味かしら?」
「だってワルツ様、アルクの村でも、王都の地下でも、どこでも巨大な工房を持っていましたよね?なのにここでは持たないというのはちょっと信じられなくて……」
「私、どんなキャラなのよ……」
やれやれ……。ワルツはこれ見よがしに溜息を吐くと、食卓から立ち上がって、徐に自身の椅子をその場から移動させた。そして床に手を触れて、押し込みながらスライドさせた直後である。
ガコンッ……
家の床面から、重いもの同士がぶつかったような大きな音が響いてきた。その音と共にワルツが触れていた床にも変化が生じる。取ってのようなものが現れて、床自体も微妙に浮かび上がってきたのだ。
ワルツがその取っ手を握って上に引っ張ると——、
ギギギギギ……
——というきしみ音と共に床板が持ち上がり、その向こう側の光景が見えてきた。真っ暗な階段だ。地下空間にありながら、さらにその地下へと繋がる通路が、現れたのである。
「この村に作った工房なら、この先にあるけど……でも楽しいものなんて何も無いわよ?設備もまだ碌に出来てないし……」
「い、いつのまに……」
普段、この家で生活しているはずのアステリアはまったく知らなかったらしい。ワルツが開けた地下への扉を前に、目をパチパチとさせて驚いていたようだ。
その他、ルシアに驚いた様子は無い。ワルツと共に工房を作ったのは彼女だからだ。
テレサにも驚きは無い。ただ彼女の場合はワルツが工房を作っていた事を知っていたわけではなく、また別の理由があってのことだったようだ。それが何なのかワルツは知らず、テレサとルシアだけの秘密だったりする。
そして最後。ユリアと狩人は、というと——、
「ははっ!ワルツらしいな!」ニカッ
「やはりあったのですね……」
——驚くというよりも呆れていたようである。
特に呆れの度合いが高かったのはユリアだ。
「またエネルギアちゃんやポテ様のような戦艦をお造りになるのですか?」
「あ、ごめん。ユリア。その話、アステリアにはしてないのよ」
「……!こ、これは失礼しました!」
「……?」
「まぁ、秘密にするつもりはないから、その内、機会があったときに、アステリアにも説明しようと思うわ?ポテンティアが支援物資の輸送をしているんだから、見る機会もあるでしょ。きっと」
「えっと……よく分からないですけど、よろしくお願いします」
と、アステリアが頭を下げたところで、ワルツは話を再開した。
「ちなみに、地下で作ろうとしているものは、戦艦じゃないわよ?」
「「えっ」」
「……そこ、驚くところ?まぁ、別に良いけどさ?作ろうとしているものはね……戦艦よりももっと面倒くさくて、大規模なものよ?」
ワルツがそう口にすると、狩人とユリアの表情が今度こそ固まる。戦艦よりも大規模、というワルツの発言に、何か思う事があったようだ。




