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14.6-32 支援32

 目の前で生じた出来事に、皆がワルツの身を絶望視した。最大出力で動作を開始した何十本もの自動杖から、凄まじい冷気が一斉に放出されて、その場の空気を異常なほどに低下させたからだ。自動杖に近ければ近いほど冷気は強烈で、自動杖のすぐ近くにいたワルツが凍り付いて死んでしまってもおかしくない——いや、死んでいて当然な状況だと言えた。


 猛烈な冷気により、周囲が濃密な霧に包まれ、皆の視界を遮る。霧の向こう側ではどんなことになっているのだろう……。皆が最悪の展開を想像しながら、霧が晴れるのをただひたすら待った。


 ……そう、ジョセフィーヌやハイスピアたちには、何も出来なかったのだ。冷気が噴き出し続けている状況下でワルツに近付けば、彼女の二の舞になって凍ってしまうはずだからだ。


「ワルツさん!」

「ワルツ先生!」


 それぞれハイスピアとジョセフィーヌが霧の向こうにいるワルツに対して呼びかけるが、返事はない。


「ああああ……なんてことに……」

「私がワルツ先生に話を振らなければ……」


 2人は後悔に苛まれた。もしも自分が忠告をしていれば——あるいは自分が実験を行っていれば、ワルツが氷漬けになる事はなかったのではないか、と。


 それからしばらく経って、自動杖に充填されていた魔力が枯渇したのか、冷気の発生が治まった頃。


「んー、これは風魔法も組み合わせて、部屋の中の空気を循環させる必要がありそうね」


 霧の中から、そんな声が聞こえてくる。ワルツの声だ。


「ワルツさん?!」

「ワルツ先生!!」


「ん?んん?あぁ、ごめん。今、耳凍ってるから、よく聞こえないわ」


 ジョセフィーヌたちが呼びかけると、霧の向こう側からワルツが現れる。そんな彼女は、ずぶ濡れの状態で真冬のシベリアを歩いたかのように凍っていて、頭や服などが真っ白になって妙な形で固まっていた。しかし、本人には問題はなかったようである。


「ちょっと待ってよ?今解凍するから」じゅわぁ「これでおっけー」


 ワルツから湯気が上がって、彼女の姿が元通りになる。"湯気"というのは比喩ではない。その言葉通りに、彼女から湯気が上がったのだ。


 その異様な光景に、オーディエンスたちは唖然として固まっていたようだ。自分の目が信じられなかったらしい。


 一方、ジョセフィーヌとハイスピアは、ワルツの身体に生じた異様な現象を軽くスルーして、彼女が無事だったことに安堵していたようである。2人はこれまでワルツと共にいた時間が比較的長かったせいか、ワルツの非常識に対する免疫が付いていたらしい。


「それで何?なんか言ってなかった?」


「ワルツさん!身体は大丈夫ですか?!」


「うん?ちょっと寒かっただけだけど、別に何てことは無いわ?」


「そ、それならいいのですが……」


「それでジョセフィーヌ?」


「は、はい!何でしょうか?ワルツ先生」


「自動杖を使った冷凍庫作成なんだけど、氷魔法の自動杖だけじゃなくて、満遍なく部屋全体の温度を下げられるように風魔法の自動杖も組み合わせた方が良さそうよ?あと、自動杖の発動スイッチ……っていうか、起動用の魔法陣なんだけど、あれ、もっと離れた場所から操作できるようにした方が良いと思うわ?多分、人間だと死ぬから」


「は、はい……」


 ジョセフィーヌだけでなく、その場でワルツの発言を聞いていた者たちは、一斉に皆が思った。……人間だと死ぬというのなら、生き残ったワルツはいったい何者なのか、と。


 しかし、ワルツにそれを気にした様子は無く——、


「ほら、ジョセフィーヌ。次の実験の準備よ?風魔法の自動杖を準備して!」


——彼女自身も自動杖の実験を気に入ったのか、ジョセフィーヌに対し、実験の継続を促すのであった。


狩「ははっ!これが放置プレイか!」

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