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14.6-30 支援30

 ユリアから封筒を受け取ったジョセフィーヌは、目を細めながら封筒の表面をさらりと撫でた。どうやら紙質が気になっていたらしい。レストフェン大公国で作られる紙とはまるでことなるのだろう。


 その後で、ジョセフィーヌはユリアに対して確認する。


「開封して読んでも?」


「はい、どうぞ」


 ユリアから許可を貰ったジョセフィーヌは、封筒を破ることに一旦躊躇してから、ひと思いに封筒を開けた。


 そして、彼女が目を通した手紙の中には、要約するとこんなことが書いてあったようだ。


『手紙でのご挨拶になってしまい申し訳ございません。次の支援物資は食料品ですよ〜。たくさんお送りするので、保存するための冷凍庫の準備をお願いしますね〜。ミッドエデン共和国評議会議長コルテックスより〜』


「……この議長のコルテックスという方は、ずいぶんと……その……」


「頭がおかs——特徴的って言いたいのよね?ごめんね。そう言う人だから慣れて貰えると助かるわ?」


 とワルツがジョセフィーヌの思考を予想して謝罪する。ジョセフィーヌが苦い笑みを浮かべていたところを見ると、図星だったらしい。


「ちょっと頭が花畑な娘だけど、やるときはやるのよ?あの娘が議長に着いて1年経つけど、今のところ問題は起こってないし……。まぁ、ライバルを尽く蹴り落とs……ううん、なんでもないわ?」


 ジョセフィーヌはワルツの言いかけた言葉を聞いて、顔色を変えた。どうやら彼女は察したらしい。……このコルテックスという人物、ただ者ではない、と。


「……ご忠告感謝いたします。また、支援物資の件につきましても、どんな感謝の言葉をお伝えすれば良いのか分からなくなってしまうほどに大変感謝しております。しかし……冷凍庫というのは何なのでしょう?文面から察するに、何か冷たい倉庫のようなものかと推測されますが……」


「あぁ、そっか……。普通、冷蔵庫どころか、冷凍庫なんて無いわよね……。でも、氷室くらいはあるんじゃない?冬の間に降った雪を地下の倉庫かどこかに仕舞い込んでおいて、1年中涼しい部屋を作るやつ。あれの強化版みたいなやつよ?」


「……知識としては存じておりますが、レストフェンでは一般的なものではありません。雪が降るのも年にあるかないかというくらいで、溜められるほどは降らないのです」


「なるほどね。ちなみに、ものを凍らせて保存する魔道具って無いの?」


 ワルツが問いかけると、ジョセフィーヌは隣にいた騎士団長のバレストルに視線を送った。ジョセフィーヌ自身は、魔道具の種類についてはそれほど詳しくなかったらしい。


 結果、バレストルが知っている範囲で回答する。


「噂には聞いたことがあるという程度で、一般的なものではありませんな。」


「そう……。じゃぁ、ユリア?ミッドエデンから提供する?」


「冷凍機とそれを動かす動力の技術が漏洩するかも知れませんが……」


「そうねぇ……逆カルノーサイクルの知識が流出するのは拙いかしら……。熱力学の概念が分かれば、工業革命待ったなしだし……」


「レシプロエンジンやガスタービンエンジンの発明に繋がる恐れがありますので、やめておいた方が賢明かと思います」


 ワルツとユリアがそんな会話を交わしている横では、ジョセフィーヌがとても興味深げに2人の話を聞いていたようである。2人の会話は名詞ばかりで、内容を推測するのは困難だったが、国家機密級の会話をしているのは明らか。ジョセフィーヌとしては、少しの情報から多くの知識が得られないかと躍起になっていたようである。


 しかし、ジョセフィーヌはその思考を止めざるを得なくなる。ワルツからこんな問いかけが飛んできたからだ。


「っていうかさ、ジョセフィーヌ。氷魔法を使える自動杖を部屋の中に入れて、それでずっと氷魔法を展開していたら、冷蔵庫や冷凍庫の1つや2つくらい、簡単にできるんじゃないかしら?」


「……あ」


 どうやらジョセフィーヌの中に、その考えは無かったらしい。彼女は自動杖を武器としてしか見ていなかったのだ。


「なるほど、それなら冷たい部屋だけでなくて、暖かい部屋というのも作れそうです。ということは、冬にストーブがいらなくなるし、夏も涼しくできる……!調理器具という展開もありそうです!なるほど……」


「……なんか、ジョセフィーヌの思考が暴走し始めたっぽいんだけど、私、言っちゃいけないことでも言っちゃったかしら?」


「……みたいですね」


 自動杖の可能性に気付いて、暴走を始めたジョセフィーヌを前に、ワルツとユリアは思わず顔を見合わせた。しかし、当のジョセフィーヌは、他人から自分がどんな風に見られているのかまったく気付いていない様子で……。ユリアたちそっちのけで、自動杖の可能性を考え続けたようである。


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