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14.6-29 支援29

「コルテックスが来ないで、代わりにユリアが来るとか……何かあったの?あの娘、カタリナの折檻でも受けていたりするの?」


 世界中のドアとドアを繋げる魔道具"どこ()でもドア"は、コルテックスの魔道具である。つまり、使用者は本来、コルテックスのはず。ところが彼女が来ないでユリアが来たとなると、コルテックスに何か問題が起こったとしか考えられなかった。可能性として一番高いのは、彼女がカタリナの怒りを買って、酷い目に遭わされて来られなくなった、といったところか。


「えっと……まぁ、似たようなものです(ワルツ様にはちょっと言えないんですよね……)」


「大変ねぇ……。それで、2人は何をしに来たのかしら?今、私たち、見た通り学生をやってる訳なんだけど……」


 とワルツが口にすると、ユリアは、フフッ、と意味ありげな笑みを浮かべてこう言った。


「はい。既に調べは付いています。この学院にも、レストフェン大公国の政府にも、配下の者を忍ばせておりますので」


 と、情報局局長らしくユリアが口にすると、それを隣で聞いていたジョセフィーヌや騎士たちが大いに驚く。というよりも、サキュバス(ユリア)がその場に現れた時点で驚いていた、と言うべきか。


「ど、どういうことですか?!そもそも、あなたは何者なのですか?!」


 国家元首たるジョセフィーヌが声を荒げる。自国の政府関係者にサキュバスのスパイがいるかも知れないというのだから同然と言えよう。


 しかし、ユリアにとってはいつものこと。もっと言えば、些細な事だった。


「これはご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございませんでした。レストフェン大公国、大公ジョセフィーヌ=フロイトハート様。(わたくし)、ミッドエデン共和国にて情報局の局長をしておりますマーガレット=J.シャッハという者です。皆にはコードネームのユリアと呼ばれておりますので、私の事は是非、ユリアとお呼び下さい」


 ユリアはそう言って恭しく例をした後、事情の説明を口にした。


「この度はレストフェン大公国政府に活動員を忍ばせた事、ご連絡が遅れてしまい申し訳ございません。とはいえ、この国には、我が国の国家の象徴たるお三方が滞在されているというのに、政変の真っ最中というお話。お三方の身の安全を考えますと、致し方のない対応だと考えておりますが、如何お考えでしょうか?」


 そんなユリアの発言は、副音声だらけの所謂貴族言葉といえるものだった。なお、副音声を要約すると——、


「(諜報員を忍ばされて悔しいと思うんだったら、反乱くらい抑え込んでみなさいよね!)」


——といったところである。


 その副音声はジョセフィーヌにも当然のごとく伝わっていたが、彼女が驚いていたのは副音声ではなく、主音声の方だった。"国家の象徴というユリアの発言を無視できなかったのだ。


「お三方、というのはマス——いえ、ワルツ先生と、ルシア様、テレサ様のことかと存じますが、国家の象徴というのは……どういう意味なのでしょう?」


「……ワルツ様方が話しておられないのなら、私からお話することは出来ません。ただ、権限的には、我が国の最高議会の議長であるコルテックス様よりも上の権限を持たれている方々です」


 と、ユリアが説明したところで、彼女に対してジト目を向けながら、ワルツが話に首を突っ込む。


「ちょっと、そういう誤解のありそうな発言やめてよね?私、最近、ただの町娘から、ただの学生にジョブチェンジしたんだし」


 そんなワルツの発言に続いて残り二人も相づちを打つ。


「肩書きとか勝手に付けられるものだから、あんまり意味は無いんじゃないかなぁ……」

「妾の権限はむしろ皆無なのじゃ。国を動かせるなど——」


 と、テレサが自分の権限について否定しようとしたところで、ユリアが反論する。


「まったく、三人とも何を言っているのですか?ワルツ様がお望みになれば国のすべてを自由に出来ますし、ルシアちゃんの場合はその気になれば自力で世界征服だって出来るはずです。テレサ様の場合は……まぁ、良いでしょう」


「ふふん!やはり妾は無力ということじゃな!」


「えっ……空気を読んで言わなかっただけですが、具体的に言った方が良かったですか?」


「えっ」


「国の研究機関を私利私欲のために動かしていますよね?」


「い、いやあれは、空を制するというのが国是ゆえ——」


「ワルツ様以外、ルシアちゃんや私を含めてすべての方を意のままに動かせますよね?」


「ちょっ……そ、そんなことはしないのj——」


「そう考えれば、我が国の実質的に最高権力者ってテレサ様ですよね?コルテックス様は、テレサ様の影武者って設定ですし……」


「いや……その……な、何を言っておるのか妾には分からぬのじゃ……」げっそり


 テレサはユリアの言葉攻め(?)に抗うことが出来ず、ゲッソリモードに突入した。ゲッソリモード中の彼女は、どんな精神攻撃を受けても、ゲッソリの力ですべてを跳ね返すことができる——らしい。


「……と、このような形で、このお三方は、我が国の重鎮なのです。正式な肩書きや詳細につきましては、機会があるときにご本人方にお尋ね下さい」


 ユリアはそう言って、3人についての説明を締めくくった。その際、ジョセフィーヌとしては、3人の説明よりも、人の国の政府に配下の者を忍び込ませるお前は何者だ、とユリアを問い質したかったようだが、聞く機会を失ったらしく、その言葉が彼女の口から出てくることは無かったようだ。


 というのも——、


「つきましてはジョセフィーヌ様。我が国の評議会議長より、親書を渡すよう指示を受けております」すっ


——ユリアが1通の手紙を手渡してきたからだ。


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