14.6-27 支援27
「昨日は大変助かりました。なんとお礼を申し上げれば良いか……」
『いえいえ。ジョセフィーヌ様やこの学院の学生を守るのが、僕に任された使命なので気にしないでください』
ジョセフィーヌの感謝の言葉を受けたポテンティアが顔を上げると、そこには顔を真っ赤にしたジョセフィーヌの顔があった。
そんな彼女の表情が、普段とは異なって見えたのか、ポテンティアは心配そうに問いかける。
『おや、ジョセフィーヌ様?顔色が優れないようですが、大丈夫でしょうか?』
「えっ?あ、いえ、大丈夫です……」
『それなら良いのですが、何かあった時は、気兼ねなく僕の名前を呼んで下さい。この学院や周辺の森の中でしたら、どこにでもいると思いますので』
ポテンティアがそう口にすると、ジョセフィーヌは困ったような表情を浮かべた。話を聞いていたほかの騎士たちも皆、同じ事を思ったらしい。……どこにでもいるというのはどういうことなのか。先ほどの黒い虫たちは何なのか、と。
対するポテンティアも、ジョセフィーヌたちがどんな事を考えているのか察していたようだ。ただ、彼は正直に、"黒い虫"について説明するつもりは無かったようだ。黒い虫たち——マイクロマシンの集合体たちのことは、公にすべきことではないからだ。
とはいえ、何も説明しないというわけではなかった。彼は核心をぼかして、嘘にならない程度の説明を口にした。
『あぁ、どこにでもいるというのは、この虫たちのことです』
そう言ってポテンティアが持ち上げた手の中には、いつ拾ったのか(?)黒い昆虫の姿があった。見る者が見れば嫌悪感に苛まれそうな黒光りをした昆虫だ。だが、やはりジョセフィーヌにそれを気にした様子はなく……。彼女はマジマジと虫の姿を観察していたようだ。なお、言うまでもないことかも知れないが、騎士たちは、ジョセフィーヌとは真逆の反応を見せていて、それはもう嫌悪の塊が人の姿になったような表情を浮かべていたようである。
『この虫は、僕の魔法の魔法で作っている使い魔——人工の魔物のようなもので、この虫たちがいる場所になら、僕はどこにでも行けるのです。まるで転移魔法みたいに』
「あぁ、だからあのとき、私たちをすぐに助けに来られたのですね?」
『そうです。ちなみに、すごく似たような見た目の昆虫がいるのですが、それと僕とは別物なので注意して下さい。あ、そこの騎士さん?その足下にいるのは僕ではありません。ただのGです』
「うぉらっ!」ドゴッ!
『やれやれ……。今回は僕ではありませんでしたが、どうも皆さん、僕の姿を見たら、揃いも揃ってあのような行動に出るのです。一言、話しかけて、僕ではないことを確認してから、潰していただきたいところですね』
ポテンティアはそう言って大げさに首を横に振った。人に対して幻滅しているといった様子だ。
ちなみに、この時、彼の話を聞いていた騎士たちは、皆、顔を見合わせて、どうしたものかと考えあぐねていたようである。黒い虫を足で潰すときに、一々話しかけてから潰すというのはとてもシュールな光景で、本当にやるのかと戸惑ってしまったらしい。
そんな騎士たちの反応を見たポテンティアは、賢者の弟子よろしく何かを考え込んだ後、『なるほど。ではこうしましょう』と言ってから、一旦、身体を昆虫の姿に戻して、再び人の姿に戻った。
ただ、人の姿を模したポテンティアは、"彼"ではなくなっていた。"彼女"だ。ポテンティアは見た目の性別を変えて、少女っぽくなったのである。より具体的に言うと、顔の形、髪の長さは同じだが、服装が女学生のものに変わっている、という具合だ。元々、ポテンティアは童顔のために、服装が変わるだけで、女学生のような見た目になったのである。
『僕が少年の姿をしているから黒い虫たちに話しかけにくいというのでしたら、この格好では如何でしょう?話しかけたくなりませんか?』
騎士たちの多くは男性ばかり。なので、話しかける相手の黒い虫の正体が少年、というよりも、正体が少女だったほうが受けが良いと考えたらしい。擬人化のようなものである。それも黒い昆虫の。
実際、騎士たちの反応は大きく変わっていて、皆、真剣な表情を黒い虫たちへと向けていたようだ。その様子を見て、ポテンティアが一言。
『ちょろい。ちょろすぎます。そんなことで良く騎士を務められていますね』
彼は、煽るようにそう口にするが、ポテンティアに対し反論を口に出来る者はおらず……。騎士たちは皆、なんとも恥ずかしそうに視線を落としていたようである。
なお、ポテンティアの本当の性別は、ワルツたちも知らなかったりする。




