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14.6-25 支援25

「あの娘、今、転んで頭をぶつけなかったか?それもかなり大きな音を上げながら……」

「あぁ……しかも、転んでから動かなくなったな」

「でも獣人だし……放っておいて良いんじゃない?」

「そもそも、なんで学院に獣人がいるんだ?しかも学生の服を着てるとか、何かの芝居か?」


 ワルツたち一行や、地面に沈んだテレサの姿を見た学生たちは、皆、ひそひそと噂をするように会話し、一行のことを白い目で遠巻きに観察していた。学生たちが、ワルツたちについて、目撃談を噂話として話のネタにすることはこれまでも多々あったが、ワルツたちの事をマジマジと観察できた機会は今回が初めて。そのせいか、学生たちは、ワルツたちの事をよく知らないために、一行に向かって見下すような視線を向けたり、根も葉もない噂話を交わしたり……。


「(やばっ……)」


 人見知りの激しいワルツにとっては、脳内の処理が追いつかなくなり、大混乱に陥りそうな状況だった。結果、彼女は、思考を加速させることで、思考的な余裕を確保しようとする。


「(こういう時、どうすれば良いのかしら?説得とか無理よね……。じゃぁ、逃げる?どうやって?魔法を使わずに逃げるのも無理よね……。テレサも魔力切れって話だし……)」


 逃げるには魔法を使わなければならないが、それは校則違反。テレサの言霊魔法を使えば、記憶が書き換えられるので有耶無耶に出来るが、今の彼女は魔力切れ状態で、なおかつ、地面に伏せて不貞腐れている状態。逃げるという選択肢はあまり賢明とは言えなかった。


 だからといって、何でもない、と周囲の者たちに説得するというのも難しい状況だった。ここは、獣人というだけで虐げられる国なのだ。獣人に対してマイナスのバイアスが掛かっている状況を覆すためには、相当に高度な言葉のスキルか、あるいは反論を許さないような権力のようなものが必要となるが、今のワルツたちはそのどちらも持ち合わせておらず……。説得するという選択肢は、逃げるという選択肢よりも、困難な選択肢だと言えた。


 ……そう、今のワルツたちには。


「なにやら騒ぎに魔決まれているようですな?マスター」


 その場に現れたのは、ジョセフィーヌの近衛騎士団長のバレストルだった。彼が現れただけで、人垣が左右に割れる。


「あー、その権力、うらやましいわ……」


「はい?」


「いやいや、何でもないわ?テレサが地面に伏せているのも含めて、ね(ほら、テレサ。早く起きなさいって!)」


「んあ?事が終わるまで、気を失った振りでもしてようかと思ったのじゃがのう……」のそっ


「はぁ……これでどうにか窮地を脱せられるわね……。それで、何か用かしら?ジョセフィーヌが外出禁止を食らったから、代わりに私たちの事を呼びに来た、って感じかしら?」


「まさにその通り。閣下がお呼びです」


「えぇ、行きましょう。さぁ、みんな、行くわよ?」


 ワルツは涼しい表情を浮かべて、その場を後にしようとする。ジョセフィーヌからの呼び出しは、彼女にとって、学生たちに取り囲まれるという窮地を脱する良いチャンスで、このチャンスを逃すわけにはいかなかった。


 ゆえに、彼女の頭の中では——、


「(だれも話しかけないでよ?話しかけないでよ?いい?)」


——と心の声で、願望が連呼されていた訳だが……。そんな彼女のその願いは、ある意味、フラグのようになってしまったようだ。


「おい!お前ら!どうしてお前らがここにいる?!」


 学生たちの中に、ワルツたちのことを知っている者がいて、呼びかけてきたのだ。ミレニアの幼なじみの男子学生——ジャックだ。


「(うーわ、特に面倒くさいのが来たし……)」


 一々相手をしていたのでは埒が開かない、と判断したワルツは、無視を決め込む。


「さぁ、行きましょ?」


 ワルツは、呼びかけによって思わず足を止めそうになっていたアステリアの手を握ると、前に進もうとする。


 が——、


「おい!待てよ!質問に答えろよ!」


——と回り込まれてしまった。


「(こ、これが"逃げられない"ってやつなの?!)」


 いっそのこと、どこかのRPGのように、倒して前に進んだ方が良いだろうか……。ワルツが最悪な手段を考え始めた、そんな時のことだった。


 彼女よりも気が短い人物が動き出す。


「邪魔」


   ドゴォォォォッ!!


 ルシアだ。彼女は立ち塞がるジャックを、重力制御魔法で軽々と吹き飛ばしたのだ。



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