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「えへへへ」


「なんか、お姉ちゃんがハイスピア先生みたいになってるんだけど……」

「嬉しいことでもあったのじゃろう」

「悲しい事もありましたね……」


 4人の自動杖の実技は、紆余曲折があったものの、どうにか無事終わることが出来た。中でもワルツのテンションは、授業が始まる前と真逆になっていて、気分は最高、と言わんばかりの笑みを浮かべていたようだ。


 そんな4人が向かっていた先は図書館である。日課となっている教科書の書き取りを行おうとしていたのだ。ハイスピアではなくワルツが授業を行うという現状においても、それは変わりなく……。ある種の鍛錬のようなものとして継続して行われていたのである。


 というわけで、4人は図書館へとやってきたわけだが——、


   わいわい……

   がやがや……


——図書館周辺は人でごった返していた。寮に引き籠もるような呪い(?)を受けていた学生たちは、昨日からようやく投降できるようになっていたわけだが、皆、遅れた分の教科書の書き取りを行おうとして、図書館に集まってきていたのだ。


「うわ……すごい人だかりだね。この学校にこんなに人がいたんだぁ……」

「これは、教科書に辿り着くのは無理ではなかろうかの?」


 ルシアとテレサが人だかりを見て引き攣った表情を浮かべていると、アステリアが不思議そうに質問する。


「えっと……図書館で書き写さなきゃダメなんでしょうか?」


「うん?どういうこと?」

「……ワルツに製本して貰えば良い、とな?」


「はい。普段、ハイスピア先生に代わって授業を行っているマスターワルツなら、教科書など見ずとも、授業の内容が分かるのではないかと思ったのです」


「あー、それは……」

「ちょっと難しいかも知れぬのじゃ」


「えっ……どうしてですか?」


「だってほら……」


「えへへへ」


「脳内、お花畑状態で、取るもの手に付かず、なのじゃ。もしかすると、叩けば()()かもしれぬ。アステリア嬢?試しにやってみると良いのじゃ」


「無理です」


 アステリアは即答した。そこに躊躇は一切無かったようである。"マスター"と仰ぐワルツに手を上げるなど、アステリアにとっては言語道断だったらしい。


「テレサ()()がやってみては如何ですか?」


「はぁ……仕方ないのう……」わきわき


 テレサは口で、仕方ない、と言いつつも、とても嬉しそうに手を怪しく動かしながら、ワルツに迫った。するとあと一歩のところで——、


   ズドォォォォン!!


——という轟音と——、


「ふべっ?!」


——という潰れたカエルのような悲鳴を上げながら、テレサは地面に沈むことになる。ワルツの重力操作の影響を受けたのだ。


「ちょっと、なにどさくさに紛れて怪しいことしようとしてるのよ。その手つき、絶対、ヤバいやつよね?」


「なん……じゃ……。いつの間にか……我に……戻っておったの……じゃ……な……」ガクッ


「最初から我を忘れてなんていないわよ。まったく……油断も隙もありゃしない」


 ワルツはそう言って頬を膨らませた後で、アステリアに言う。


「ごめん、アステリア。流石の私でも、見たことが無い内容の教科書を想像で書くっていうのは無理なのよ。明日の授業って、まだ受けた事が無い教科だったわよね?」


「そうだったんですね……。これは失礼しました」


「いや、良いのよ?でも、心配しなくでも大丈夫よ。これからテレサが教科書を確保しに行ってくれるから」


「……ちなみに、どうやるのかの?」


「言霊魔法で」


「……残量ゼロなのじゃが?」


「どこかで人を襲えば良いんじゃないの?私にやろうとしたように」


 ワルツは、まるで汚いものでも見るかのような視線を、足下にひれ伏すテレサへと向ける。対するテレサは、反論しようが無かったためか、そのまま地面に顔を伏せて動かなくなった。現実逃避を決め込んだらしい。


 そんなテレサを見かねたのか、ルシアが彼女に近付こうとするのだが……。その直前で、彼女たちは気付くことになる。


   ざわざわ……


 自分たちがいつの間にか学生たちの視線を集めていた事に。


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