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14.6-22 支援22

   しーん……


「…………」ガクッ


 自動杖の魔法陣を指先で押した後、ワルツはしばらく固まった後で、その場に崩れ落ちた。自動杖から魔法が出てこなかったのだ。


「なんてことなの……」


 魔導ランタンは使えるというのに、何故、自動杖は使えないのか……。失敗する原因が分からず、ワルツは途方に暮れた。予定通りなら、今頃、アステリアと同じようにハイスピアから叱られていたはずだというのに、それすら叶わないことがワルツには悲しすぎて、彼女は途方に暮れてしまった。


 彼女の事情を知っていた者たちも、声が掛けられない様子で、離れている場所から見ていることだけしかできなかった。ただただ痛々しいだけ。ルシアなどは、思わず目を背けてしまうほどだった。


 一方、教師のハイスピアは、ワルツの事情を知らなかったためか、彼女が崩れ落ちた理由が理解出来なかったようである。何か不慮の事故でも起こったのではないかと心配していたほどだ。


「だ、大丈夫ですか?!ワルツさん!」


「……えぇ……大丈夫です……」


 ワルツは詳しい事情を語らず、短く答えて、ユラリと立ち上がった。あまりに消沈しすぎていたせいか、フラフラと立ち上がった彼女の姿はまるで亡霊のよう。そのただならぬ様子に、ハイスピアは慌てたようである。


「(いったい何が……)」


 ハイスピアが思い出す限り、ワルツの様子が急変したのは、彼女が自動杖の魔法陣に指を乗せた直後。真っ当に考えるなら、魔法陣を触ったことでワルツに異変が生じた、と推測するのが自然だった。


「(魔法が発動しなくて、ワルツさんの精神に何か問題が生じた……?いえ、そんな報告は聞いたことが無いし、そもそも火魔法専用の杖なんだから、精神に影響が及ぶなんてありえないわ……)」


 ではなぜワルツは急に消沈したのか……。そこまで考えたハイスピアは一つの仮説に辿り着く。


「ワルツさん。一旦、杖を返して貰いますね?」


「あっ……はい。どうぞ……」すっ


 ハイスピアはワルツから杖を回収すると、杖をよく確認した。その結果、彼女は仮説を確信へと変える。


「……ワルツさん。もう一度、魔法を使ってみてもらえませんか?」すっ


 ハイスピアは回収したばかりの杖を再び差し出しながら問いかけるが、対するワルツの反応は芳しくない。


「……いえ、いいんです。今まで隠していましたけど、実は私、魔法が使えなくて……。自動杖なら使えるんじゃないかって思って期待していたのですが……でもやっぱりダメだったみたいです」


 自分が魔法を使えないことを隠す様子もなく、ワルツは事実をハイスピアに打ち明けた。そんな彼女の中では、学院にいる必要は無いという結論すら出ていたようである。自動杖が使えないのだから、自動杖の仕組みを解明するのに時間を掛けても仕方がないからだ。


 そんなワルツの発言を、ハイスピアはすぐには理解出来なかった。むしろ、消沈しているがゆえの行きすぎた発言と考えていたようだ。


 そのせいか、この時の彼女はすこし強引だった。杖を差し出しても受け取ろうとしないワルツの手を取って、無理矢理に杖を握らせたのだ。


「大丈夫です。ワルツさん。ワルツさんでも自動杖を使う事は出来ます。ほら、魔法陣に指を触れてみて下さい」


 ハイスピアはそう言って後ろに下がった。これより先の1歩は、自分が背中を押すのではなく、生徒が歩くべき1歩。そう判断したのだ。


「(さぁ、魔法陣を!)」


 ハイスピアは心の中で唱えた。魔法ではなく、何の効果もない、ただの心の声だ。たとえ効果が無いと分かっていても唱えなければならないと思い、彼女は何度も唱え続けた。


 そのせいか、ワルツの指が少しずつ動く。あと1cm、あと5mm……。


 そして、彼女の指が、ついに自動杖の小さな魔法陣に触れたのである。

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