14.6-21 支援21
ルシアが魔法を使った後でぽかーんと口を開けたまま動かなくなったハイスピアのことをどうにか復帰(?)させてから……。
「えへへへ」ふらふら
「ようやく動いたと思ったら、また現実逃避してるし……。先生?今、授業中で、私の自動杖の演習、まだ終わってないんですけど?」
「えへへへ」ゆらゆら
「あー、もう……。テレサからも言ってもらえる?何も無かった、って」
「……ハイスピア殿。"ア嬢の演習の時には、ごく普通のことしか起こらなかったのじゃ"」
「!」ビクンッ
「これで良いかの?」
「……ホント、貴女の魔法って、すごいっていうか、怖いっていうか……」
ハイスピアはテレサの言霊魔法を受けて、何か電撃でも受けたかのようにハッとした表情を浮かべた。記憶をすり替えられて、ルシアは大きな魔法など使っておらず、普通に自動杖を使って、そして普通に魔法を的に当てたというものに変わったらしい。
ワルツとしてはテレサの言霊魔法について色々と思うこともあったようだが、これまでもその危険性については何度も触れてきたのでここでは触れず……。演習を続ける事にしたようである。
「ハイスピア先生!」
「は、はい!ハイスピアです!」
「(ちょっとまだ挙動に不安があるけれど……まぁ、いっか)次は私の番で良いですか?」
「えっと……そう、そうです。次はワルツさんの番です。ルシアさん、自動杖をワルツさんに渡しt——」
「ちょあああっ!(ルシアの自動杖は消し飛んじゃったから無いじゃん!)テ、テレサ!」
「……"ア嬢の自動杖は、ア嬢の手汗で魔法陣がダメになって破裂したのじゃ"」にやぁ
「!」ビクンッ
「ちょっ?!テレサちゃん?!それ、どういうこと??」
「……緊急事態につき、ア嬢にも泥を被ってもらっただけなのじゃ。妾に付き合うが良いのじゃ」
「だからと言っても、手汗は無いと思うんだけど?」
「……ごめん、ルシア。その話はまた今度で」
「……お姉ちゃんがそういうなら……」ムスッ
「すみません、ハイスピア先生。続きをどうぞ」
一つ記憶を書き換えれば、別の部分でも綻びが出る……。まるで連続して嘘を吐き続けているかのようだと思いながら、ワルツはどうにか話を先に進めようとした。彼女は、何が何でも、自動杖の演習を中断させたくなかったのだ。自動杖の技術が新しい機動装甲にも採用できるものなのか見極められる絶好の機会……。それが今回の演習だからだ。
「あぁ……はい。では、これを使って下さい」
記憶が書き換えられた様子のハイスピアは、一本の自動杖をワルツに手渡した。何と言うことはないどこに出あるような木の棒のようなものだ。表面に銀色のインクで電子回路のような魔法陣が描かれている点と、グリップ側の突端に小さな赤い宝石のようなものが埋め込まれている点が特徴的で……。魔道具についてそれほど知識が無いワルツにとっても、自動杖が魔道具の延長線上にあることは容易に見て取る事が出来た。
「(なるほど。この赤い宝石みたいなやつが魔力を溜める魔石で、魔法陣の部分は……これは魔道具とまったく同じね。で、ボタンの代わりにこの小さな魔法陣に触れると魔法が発動する、と)」
ワルツは、周囲の者たちがほぼ止まっているように見えるほど思考を加速させて、手にした自動杖について思いを馳せる。
「(魔法が飛んでいくとか行かないとかは、この際、どうでも良いわ。まずは魔法が発動するかしないかよね。本当に魔道具と同じ作りだっていうなら、私が触れても魔法が発動するはずだけど……無駄に緊張するわ……)」
生体部品を搭載していない彼女は、魔力を操る事ができないために、いっさいの魔法を使うことができなかった。それが、自動杖によって使えるようになるかも知れないのだ。彼女の期待はこの瞬間、極限まで高まっていたと言えた。
ただ、答えはもう分かっているはずだった。自動杖が魔道具の延長線上にあるとするなら、魔導ランタンのようにボタンを押すだけで動作する魔道具と同じだと言えるので、その場合はワルツにも扱うことが出来るからだ。
それでも確信が持てなかったのは、魔法そのものを発動させる自動杖が、魔道具とまったく同じ原理かどうか判断が付かなかったから。確かめる方法はただ一つ。
「(……いくわよ!)」
ぽちっ……
実際に自動杖を使ってみるというものだった。




