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14.6-20 支援20

 戻ってきたハイスピアの手には、大量の自動杖の束が握られていた。どうやら、ルシアが成功するまで、何度も自動杖を使わせてもらえるらしい。自動杖1本を作るのにいくら掛かるのかは不明だが、凄まじい大盤振る舞いだというのは確実だった。


 なぜそこまでしてくれるのか……。ワルツたちが疑問に思っていると、それを察したのか、ハイスピアが事情を説明し始めた。


「皆さんには積極的に教材を使用して授業を進めるようにと、学院長から特別な指示が出ていますので、自動杖の1本や2本程度、ダメにしたところで問題はありません。もちろん、故意に消耗するのはいただけませんが、訓練用の自動杖なら、10本や20本くらい吹き飛ばしてもお咎めは無いはずです」


 ハイスピアはそう言って、ルシアに対し自動杖を差し出した。先ほどルシアが吹き飛ばしたものと同じ杖だ。


 対するルシアは恐る恐る杖を手に取ると、演習場の的へと向かい……。そして最善の注意を払いながら、杖に備え付けられていた魔法陣に手を触れた。もちろん、魔力を流すようなことはせずに、ただ触れただけである。端から見れば、いつ大きな音を出すとも分からない玩具に怯える少女のように見えていたが、全員、ナイーブになっていたためか、そのことを指摘する者は流石にいなかったようである。


 そして——、


   シュボッ


——ルシアが手にした自動杖の先端に、小さな炎が浮かび上がった。振りかぶって魔法を発動させたわけではないので、ただのトーチのようである。


「ルシアさん!それではただ火魔法を燃やしているに過ぎません!こう、振りかぶって投げつけるように魔法を発動させるのです!」


「せ、先生……それ難しいです……。間違えて、何か変なものを飛ばしてしまいそうで……」


「……?心配しなくても大丈夫です。自動杖の替えはまだたくさんありますから、失敗を怖れてはいけません」


「えっと……演習場の替えって……あ、いえ、何でもありません……。まいったなぁ……」


 ルシアは諦めて杖を振りかぶった。幸い、彼女が狙っていた的の方角に建物や人の気配といったものはないので、事故が起こったとしても大きな問題にはならなそうである。


「小さな魔法……小さな魔法……」


 ルシアは何度も呟いた。大きな魔法にならないようにと心の底から願いながら、精神を統一する。


 その際、彼女は後ろを見ていなかった。的しか見ていないのだから当然だ。もしも彼女が後ろを見ていたなら、そこにいた者たちに対してジト目を向けていたことだろう。そこにはワルツを先頭として、テレサ、アステリアが一直線に並んでいて、ルシアが魔法事故(?)を起こしてもいいようにと備えていたからだ。ちなみにふざけていたわけではない。本気である。


 自分の後ろでそんな事になっているとは露知らず、意を決したルシアは——、


「……!」カッ!


——大きく目を見開いて、杖を振り下ろした。


   パンッ!!


 結果、自動杖が音を立てて花開く。そもそも、魔法を使おうとしている時点で大間違い。無意識のうちに自動杖に魔力を注ぎ込むことになるからだ。


 しかし、ルシアはそこで止まらなかった。自動杖を使う以上まともに魔法は使えない、と察した彼女は、強硬手段に出たのだ。花開いて用を足さなくなった杖に、無理矢理魔力をつぎ込んで、火魔法を放ったのである。


「ふ、吹き飛べっ!」


   ドゴォォォォッ!!


 まるで大型ロケットブースターの点火実験でも行ったかのような火柱が上がり、建物の外壁にひび割れが生じるほどの振動が周囲に響き渡る。ルシアが無理矢理に火魔法を使った結果だ。ルシアの手元から真っ直ぐに伸びた紅蓮の炎が、的よりもすこし上を通って、空の彼方へと消えていく。被害は演習場の壁が蒸発して消し飛んだことくらいで、それ以外に人的被害が生じるようなことは無かったようだ。


 そして、シーンと静まりかえった演習場で、ルシアは構えていた腕を下ろすと……。ややしばらくの後、くるりと後ろを振り向いてこう言った。


「……これ、欠陥品だね!」ニコッ☆


 彼女が浮かべた満面の笑みに、たっぷり1分ほど誰も反応を返せなかったのは仕方のないことか。

 

てへ☆ペロ、ならぬ、てへ☆テロ、なのじゃ。

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