14.6-19 支援19
そしてハイスピアが新しい自動杖を持ってきて、授業が再開する。
シュボッ……ドンッ!
「おぉ!テレサさんも上手いですね」
「…………」げっそり
「うん?テレサさん?」
「あー、先生。テレサの事はそっとしておいてあげてください。ちょっと今、感傷に浸っていると思うので……」
「はあ……そうですか。では、次はルシアさんの番です」
「はいっ!」
ルシアはテレサから杖を受け取ると、持ち手の部分をハンカチで包んだ。直接触れるとテレサの二の舞になると思ったらしい。
そんな彼女は、結論から言うと、手汗などではなく、別のことに気を配るべきだった。彼女が愛用する杖は、魔力が特別に強いドラゴニュート用の巨大な杖であり、人間用の小さな杖に魔力を流すと——、
パンッ!
——と弾け飛んでしまうのだ。要するに、この時、彼女は、杖に対して無意識に魔力を流そうとしたのである。例えるなら、小さなLEDが付いた電子回路に、工場稼働用の超高電圧電源を繋ぐようなものだ。
「…………」
花が咲いたように先端が広がってしまった杖を手に持ったまま、ルシアが固まる。ピタリとも動かず銅像のように固まる彼女に対し、誰も声を掛けられなかったのは、単に掛ける言葉が見つからなかったためか、あるいは、すでに皆、失敗していたために、心の余裕を失っていたからか。
尤も、ハイスピアは教師だったので、話しかけざるを得なかったようだが。
「えっと……もう一本、持ってきますn——」
「先生」
ルシアがハイスピアの言葉を遮る。
「は、はい!何でしょう?ルシアちゃん」
「もう……良いです。私……杖が使えないって、分かってるので……」
死んだ魚のような目になったルシアが、新たな自動杖を取りに行こうとしていたハイスピアの足を止める。どうやらルシアの精神は、ダークサイド(?)に堕ちてしまったらしい。
そんな生徒を前にしてハイスピアは思った。
「(こ、このままでは大切な生徒の心が折れてしまいます!どうにかしなければ!)」
教え子をこのままにはしておけない……。即断したハイスピアは、「待っていてください!」という言葉をその場に残して、その場から立ち去っていった。彼女には何か考えがあるようだ。
一方、残された4人は、高い空を見上げていたようだ。空の彼方ではトンビのような魔物が上昇気流に乗って旋回しており、ときおり吹いてくる風も熱くもなく寒くもないとても心地の良い風で……。絶好の散歩日和と言える天候だった。
しかし、4人とも、まるで豪雨の中に立たされるかのように表情は暗い。皆、自分の失敗に打ちひしがれているといった様子だ。……まだ自動杖を使っておらず、失敗していないはずのワルツも含めて。
そんな姉の様子に気付いたのか、ルシアが問いかける。
「どうしたの?お姉ちゃん。そんなゲッソリとした顔をして……」
「……ルシアは大丈夫なの?」
「……うん。まぁ、ショックはショックだけど、普通の杖が使えないって事は分かってたから、自動杖も破裂するんじゃないかな、って予想は付いてたし……」
「そう……ルシアは強いのね……」
「そんなことはないけど……でも、お姉ちゃんはどうして落ち込んでるの?」
「…………」
ワルツは空の彼方に視線を向けながら、事情をポツリと呟いた。
「……テンションが上がりすぎて、一周して下がってきたのよ……」
「あ、うん……。そうなんだ……(いつものお姉ちゃんか……)」
と、相づちだけ打って空を見上げるルシア。その結果、4人共が覇気の無い顔を見せながら空を見上げるという異様な状況が出来上がった訳だが——、
「おまたs……えっ……(状況が悪化してる?!)」
——意気揚々と戻ってきたハイスピアが、教え子たちになかなか話しかけられなかったのは仕方のないことか……。
この気持ち、分かって貰えるじゃろうか……。




