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14.6-18 支援18

「振りかぶりながら、手元にあるこの小さな魔法陣に触れてください。いいですか?よく見ていて下さいよ?こう振りかぶって……ここで、えいっ、と!」


 ハイスピアはオノマトペまみれの説明をしながら、自動杖を振った。その瞬間、火球が自動杖の先端から放たれ、演習場の先にある的へと当たる。ごく一般的な火魔法の火球だ。


「このように、火魔法用の自動杖を使えば、火魔法を簡単に飛ばすことができます。細かい調整が出来ない反面、魔物に襲われているなどの窮地に陥っていても、心の乱れに関係無く安定して魔法が使えるというのが自動杖の最大の利点です。どんな達人であっても、窮地に陥れば取り乱してしまうものですから」


 と、追加で説明をした後で、ハイスピアは生徒の名前を呼んだ。


「では、アステリアさん。実際に自動杖を使ってみて下さい」


「は、はいっ!」


 アルファベット順で、先頭のアステリアが名前を呼ばれる。いつものパターンだ。


 アステリアは緊張した面持ちで自動杖を受け取ると、杖の表面にあるボタンのような魔法陣をしげしげと確認した。


「先生、このボタn——じゃなくて、この魔法陣が、魔法を発射するためのボタn……魔法陣で良いんですよね?」ぽちっ


   ボォゥッ!


「?!」


「ア、アステリアさん!魔法陣に触れるのは、発射するときだけです!」


「す、すみません……。触れたつもりはなかったのですが、毛が……」


 どうやら、アステリアの手にびっしりと生えている毛の一部が魔法陣に触れてしまい、それが原因で魔法が発動してしまったようだ。静電スイッチのようなものなのかもしれない。


 誰かに怪我があったわけではないが、アステリアはしょんぼりとした。自動杖を使う事自体は単純で、成功することを疑っていなかったというのに、皆の前で失敗してしまったというのは、彼女にとってはとても悲しいことだったようである。


 それからアステリアはシュンとしたまま、自動杖を振りかぶって、火魔法を的に向かって飛ばした。


   ドンッ!


「おお!命中しましたね!中々いないのですよ?初めて自動杖を使って的に当てられる人って」


「あ、はい……ありがとうございます……」しゅん


 ハイスピアに褒められてもアステリアのテンションは元に戻らなかった。杖を振って魔法を当てるという練習は、ほぼ毎日、自宅のある地下空間で、魔力が尽きるまで行っているので、アステリアとしては当てられて当然だと考えていたのだ。


 そんな彼女が何を考えているのか察したのか、アステリアの次に当てられるだろうテレサが、前に一歩踏み出して、アステリアの肩に手を置いてから、こう言った。


「……そう落ち込まなくても良いと思うのじゃ。生きておれば失敗の1コや100コくらい、あって当然なのじゃ」わなわな


「そう……でしょうか……」


「うむ。妾も日々、失敗ばかりしておるのじゃ。一々、凹んでおったら、何も出来なくなるのじゃ?次、失敗しなければ良いだけなのじゃ」ぷるぷる


「……分かりました。励ましていただき、ありがとうございます」


「気にしなくても良いのじゃ」かたかた


「……ところで……なぜ震えているのでしょう?」


「……いや?気のせいではないかの?」


 テレサはそう言ってアステリアの肩から手を離した。その瞬間、彼女の震えが嘘のように治まる。ついでにニヤけそうになっていた表情も、スッと元に戻る。


 その様子を見ていたルシアが、何かに気付いたのか、テレサの事をジト目で睨んでいると、テレサは何食わぬ顔でアステリアから自動杖を受け取って、そしてハイスピアの前に立った。当然、ルシアの方は見ない。


「ハイスピア先生。次は妾の番で良いな?」


「えぇ、どうぞ。使い方は——」


「大丈夫なのじゃ。……ふっふっふ……これで妾も結界魔法と言霊魔法以外の魔法が使えるのじゃ!……見るが良い!ア嬢!今日この瞬間から、妾の新たな未来が始まるのじゃっ!!」


 テレサは攻撃魔法が使えない事に、実はコンプレックスを持っていたようである。そのためか、自動杖を使って火魔法が使えることには相当期待していたらしく、しょんぼりとしたアステリアとは対照的にやる気満々だったようだ。


 そしてテレサは杖を振りかぶって——、


「とりゃっ!」ブゥン


——思い切り振り下ろした。


 が——、


   スカッ


「……?」


——杖からは何も出ない。


「あ、あれ?おかしいのう……」ブゥン


   スカッ


「……先生。これ、壊れたのではなかろうか?」


「……あ、手汗で魔法陣が消えていますね。交換してきます」


「……」


 ハイスピアがその場から立ち去った後、テレサは空を見上げた。そんな彼女の頭の中では、1つの単語が木霊する。手汗、手汗……。


「……どうやら、杖に書かれた魔法陣が雨粒のせいで滲んでしまったようじゃのう……」げっそり


 テレサは、青く高い空の彼方に遠い視線を向けた。その際、直前に失敗したアステリアや、ジト目を向けていたルシアを含めて、誰も何も言わなかったのは、テレサに掛ける言葉が見つからなかったからか……。


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