14.6-16 支援16
午後。ワルツたちの姿は演習場にあった。担当教員であるハイスピアも一緒だ。今日の午後はレストフェン大公国が誇る魔道具"自動杖"を使った授業だからだ。
学院において、学科生の午後の授業には、基本的に専門教科の授業が行われる。ワルツたち薬学科の場合は、薬学に関する授業を行う、といったようにだ。
ゆえに、演習場で行われる授業も、基本的には薬学に関する授業である。ようするに、これからの薬学の授業に自動杖を使う事があるので、その使い方を学ぶために今回の授業が行われることになったというわけだ。
「はい、それでは皆さん。これから授業を始めたいと思います。今日の教材はコレ。自動杖です!」
そう言ってハイスピアが掲げたモノは、一見するとただの木の棒。ただ、その表面には、電子回路のような装飾が施されていて、ただの魔法の杖では無い事は明白だった。まぁ、ワルツが、アステリアたちのためにお遊びで作った"なんちゃって魔法の杖"とどこか似ていたと言えなくもないが。
「皆さん知っているかも知れませんが、これは自動杖と呼ばれる、魔法の杖と魔道具を一体化させたような代物で、魔力を充填させておけば、ある決まった魔法を何度も放つ事ができるというものです。魔法の詠唱もいりません。魔法との相性も必要ありません。誰にでも決まった魔法が使用できるようになる道具なのです」
「(そうそう、それそれ。私はそれが欲しいのよ。どうやって作るのか、どんな仕組みになっているのか、詳しく教えて欲しいところだけど……でもそもそもどうやって使うのかすら分からないのよね……)」
ワルツとしては、他の授業などどうでも良いので、自動杖の仕組みを早く知りたかったようである。自身の機動装甲を作り直すにあたり、自動杖の仕組みを組み込んで、魔法が使えるようにしたかったからだ。彼女が学院に来ている80%程の理由は、自動杖にあるほどだった。それゆえか、今日のワルツの授業に対する意気込みは普段の比ではなかったようである。
「先生!それ、どんな仕組みになっているのですか?どんな風に魔力を溜めて、どんなトリガーで魔法を放って、どんな風に魔力を魔法へと励起させているのか知りたいです!」
ワルツはハイスピアに迫った。教えて貰えるまで引かないという意思すら伝わってくるほどだ。
対するハイスピアは、ワルツたちに弱みを握られていたり、薬学の授業では逆に教えて貰う側にいる立場だったので、自動杖の仕組みについて教えて欲しいと迫ってくるワルツの事を無碍に扱うことは出来なかったようである。しかし、自動杖の製法は国家機密。自動杖の使用自体に制限は無いが、その仕組みを話すことは出来なかった。
……そう、ハイスピアは、自動杖の作り方を知っていたのである。かつて彼女が所属していた研究室で自動杖の研究を行っており、ハイスピア自身も関与していた事があったので、一通りの製法について理解していたのだ。
しかし——、
「……いえ、それだけは教えられません。教えることが出来るのは、同じ研究室に所属し、国家機密を漏らさないという契約をした相手だけです」
「国家機密を漏らさない契約……?」
「そうです。契約の魔法……一種の呪いが掛かっています。話そうとしても話すことは出来ませんし、無理矢理情報を引き出そうとすれば……私は恐らく死んでしまうはずです」
「そういうことですか……」
そう言ってワルツはテレサの方を振り向いた。その目は、言霊魔法を使ってハイスピアの契約を無効化して、彼女から情報を引き出せ、と語っていたようである。
対するテレサは、流石のワルツの頼みでも、言霊魔法でハイスピアノ解呪に成功するか分からなかったので、首を横に振った。もしも出来なかった場合、ハイスピアは死んでしまう可能性が高いからだ。
そんなテレサの反応を見たワルツは、残念そうに目を伏せた。テレサが抱えている懸念について、ワルツも理解していたからだ。
ゆえに、ワルツはハイスピアに問いかけた。
「では、どうすれば教えて貰えるのでしょうか?」
「以前も説明しましたが、学院で進級して、専攻科まで進み、研究室に属するのが一番の近道です。ただ……」
「……ただ?」
「……私の研究室に属しても、私からは教えることは出来ません。教えられる権限を持っているのは、自動杖について専門的に研究している教授だけです。私たちに掛けられている魔法にはそういった効果もあるのです」
ハイスピアは辛そうにそう言った。本当ならワルツたちには自分の研究室に属して欲しいが、それはワルツたちのためにならないことを理解していたからだ。あるいは、普段、ワルツたちから色々なことを教えて貰っているというのに、恩を仇で返すような形になっていることも理由だと言えるかも知れない。
「そう……ですか……」
「すみません。私が教えられるのは自動杖の使い方だけです。使い方なら詳しく説明できるので、分からない事があれば是非聞いて下さい。では授業を進めます」
そう言ってハイスピアは具体的な授業を始めた。




