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   ドンッ!


「へっ?!」


 教室を出たところで、ミレニアは何かにぶつかった。一体何にぶつかったのかと彼女は顔を上げて確かめる。


「か……壁?!そんな……なんでこんなところに壁が……」


 そこには朝まで無かったはずの壁が出来上がっていて、あるべき通路が無くなっていたのである。


 壁を前にして、ミレニアは混乱した。こんなところに壁はあっただろうかと疑う思考と、いや無いだろうと否定する思考、そして、なぜ騒ぎにならないのかと疑問に思う思考に、いつの間に壁が出来たのかと悩む思考などなど……。終いには、自分の頭がおかしくなったのではないかとすら疑っていたようである。


 まぁ、それも一瞬の事で、ここ最近多発する異常現象のおかげか、彼女は冷静に考える事が出来たようだが。


「確かに朝には無かったはず……。でも工事をしていた雰囲気は無い……はっ?!これは幻影魔法ね!」


 ミレニアは咄嗟に察した。音も無く工事をするなど不可能なので、誰かが幻影魔法を展開したのだとすぐに考え至ったのだ。


 結果、彼女は心を強く持って、その手のひらを壁に当てた。幻影魔法は、精神に作用する魔法であり、一種の洗脳のようなものなのである。ゆえに心を強く持てば回避も可能。……そのはずだったのだ。


「……か、硬い……」


 だが、ミレニアが心を強く持っても、その壁を壊すことはできない。どんなに強く思っても同じだ。壁の固さは変わらず、1ミリたりとて手が壁に埋まるようなこともない。


 当然だ。壁はポテンティアが組み上げた正真正銘、本物の壁だったからだ。


  ◇


「壁だぁ!あははー☆」ぽわ〜


 壁の反対側では、自室に戻れなくなっていたハイスピアが、とても良い笑みを浮かべながら現実逃避をしていた。もしも今の彼女を絵に描いたなら、頭の上に花が咲いているような状況と言えるだろう。


 そんな彼女の様子に気付いて、ワルツも廊下へと姿を見せた。そして壁に気付いたワルツは、怪訝そうに眉を顰める。


「あれ?なんで壁なんか……。私に見えているってことは、魔法じゃなくて、本物の壁よね?ってことはポテンティアが作ったのね。この壁」


 ワルツはすぐさま犯人(?)を断定してどこに向けるでもなく問いかけた。すると壁の隙間からニュッと染み出るように昆虫スタイルのポテンティアが現れる。


『今日もミレニア様が突撃してきそうだったので、この壁で足止めさせてもらいました。正直、僕、あの方が苦手なのです。今朝もそうなのですが、酷く血走った目で僕のことを見てきたと思ったら、無詠唱からの氷魔法ですよ?あんなの見たら、怖すぎて近付きたくないです。人じゃないですけど、ちびっちゃいますよ。それにほら!今も聞こえてきますよね?ドンドンって音が』


   ドンドンドン!!

   ガンガンガン!!


『もう、何なんでしょう……。まるで僕が悪いことをしたかのようなこの仕打ち……』


「いや、別にポテンティアを探しているとは限らないと思うけど……。っていうか、ミレニアってそんな暴力キャラだっけ?まともな付き合いがあるわけじゃないから、どんな人柄なのかは良く分からないけれど、人って見かけによらないものね……」


 ワルツはポテンティアにそう答えた後で、ハイスピアに対しては、逆方向にある階段から自室に戻るよう促した。ハイスピアはワルツの言葉に嬉しそうに頷くと、今にもスキップしそうな雰囲気で、遠回りをしながら自室へと戻っていったようだ。


「どうしましょうね?この壁……」


 ワルツが腕を組んで考え込んでいると、徐に教室の中から現れたテレサが、ポツリとアイデアを口にする。


「ふむ……では、幻影魔法で壁そのものを見えなくするというのはどうじゃろう?その上で、ミレニア嬢の記憶を書き換える、と。そうすれば、ミレニア嬢は、急に壁が出来たと騒ぐことも無いし、こちらに来ることもなくなると思うのじゃ」


「まぁ、良いんじゃない?」

『僕も異論はありません』


「それでは早速……」


 テレサはそう言って壁に対して幻影魔法を展開した。その瞬間、壁は、透明になって、見えなくなるのだが——、


「あっ!見つけたわよっ!」


   ドゴッ!


「あうっ……」


   バタッ……


「「『……あ゛っ』」」


——壁が見えなくなった途端、ワルツたちの姿を見つけたミレニアは、透明な壁へと全力疾走して、そこに思い切り頭突きをしてしまった。その結果、彼女は、そのままその場に崩れ落ちて、動かなくなってしまう。


「……不慮の事故なのじゃ」

『……とても残念ですが、仕方ありません』

「ちょっ?!そんな冗談言っている場合じゃないって!ルシア!怪我人よ!怪我人!」


 ワルツたちは慌ててルシアを呼んで、壁越しにミレニアに治療を施すのだが……。


「おい!ミレニア!」


 タイミング悪く、壁の向こう側——つまりミレニア側に彼女のクラスメイトのジャックがやってきた。


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