6前-08 修復編A1
「ワルツ様〜?」
ユキとのミーティング(?)を終えた後、大工房で作業をしていたワルツのところに、ユリアが現れた。
「・・・あれ?今、忙しいんじゃないの?」
昨日のコルテックスの話では、馬車馬のようにして働かされるという話だったが・・・
「いえ、忙しいといえば忙しいんですけど、部下にも仕事を振ってあるので、私だけが特別忙しいというわけではないですよ?」
「ま、そりゃそっか」
どうやら、情報部はブラックな部署、というわけではないようである。
「それで、ワルツ様?ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど・・・」
そう言ってカバンの中から、瓶に入った何やら透明な液体を取り出すユリア。
「・・・ノースフォートレスで見つけてきた、燃える液体なんですけど・・・これ、セキユじゃ無いですよね?」
「・・・え?燃えるって・・・どういうこと?」
見た目は単なる水にしか見えないその液体に、頭を傾げるワルツ。
「えっと・・・まぁ、ちょっと見てて下さい」
ユリアはそう言いながら、持っていたハンカチに少量の液体を染み込ませ、工房内にあったガスバーナの火を近づけた。
・・・すると、
シュボッ!!
真っ白な光を放って、布が一瞬で燃え尽きる。
・・・もちろん、ハンカチがマグネシウムリボンで出来ていたわけでも、ガスバーナーの出力が高かったわけでもない。
「んなっ?!」
それを見た瞬間、ワルツは液体の入った瓶を重力制御で浮かべ、工房内の何もない空間(エネルギアの滑走路上)へと速やかに移動させる。
ただし、可能な限り揺らさず、優しく・・・。
「ちょっ・・・も、もう、持ってないわよね?!」
「えっ?まだありますよ?」
すると、カバンの中からあと4つほど、液体の入った瓶を取り出すユリア。
そのうち、一つが・・・
ぽろっ
「あっ・・・」
ユリアの手からこぼれ落ちて、地面に・・・
「・・・危なっ・・・!」
落ちなかった。
地面に当たる直前で、ワルツの重力制御によって受け止められたのである。
そしてワルツは、合計5つの瓶を滑走路上に隔離(?)した後、口を開いた。
「・・・ユリア。貴女、あの液体、どこから持ってきたの?」
「えっと、ノースフォートレスの街の中心にあった、噴水・・・というか、池の水ですね」
「・・・」
「・・・あの・・・何か拙かったでしょうか・・・?」
普段とは違うワルツの反応に、怪訝そうな表情を浮かべるユリア。
「・・・あれは、硝酸エステルの一種・・・ニトログリセリンよ」
「え?にとろぐり・・・何ですか?」
「ニトログリセリン。爆発物よ。振ったり、落としたり、火を近づけたり、凍らせたりしたら爆発する危険な代物よ?それもとんでもない爆発力のあるやつね」
「えっ・・・」
ワルツの言葉に青ざめるユリア。
「じ、じゃぁ、私たち、そんな危険なものをノースフォートレスから持ち帰ってきたってことですか?!」
「そういうことになるわね・・・」
「・・・はぁ」
ユリアは溜息を吐きながら地面にへたり込む。
「・・・良く生きて帰ってこれたわね・・・まぁ、水とか不純物と混ざってるみたいだから、余程のことがない限り爆発することはないと思うけど」
「・・・本当、死ぬかと思いました・・・というか、一度爆発して吹き飛ばされたんですよ・・・」
「えっ・・・」
ノースフォートレスで宿屋を吹き飛ばしたことを思い出すユリア。
それと同時に、ノースフォートレスの人々のことを思い出す。
「あ・・・そういえば、街の人達が、この液体を大事そうに家に持って帰っていたんですけど、何に使ってるんでしょう・・・。やっぱり、危ないことでしょうか・・・?」
一件すると柔和な表情を浮かべた町の人々が、裏ではテロリストまがいの行動をしているのではないかと思い、ユリアは表情を曇らせる。
「・・・ねぇ、ユリア?持ち帰る人って、高齢者の方が多かったりしなかった?」
「いや、そこまでは・・・」
そう言いつつ、嬉しそうに持ち帰っていた老人の表情を思い出すユリア。
「そう言われれば、そうだったかもしれません」
「でしょ?ニトログリセリンって、確かに爆薬だけど、薬にもなるのよ。口にしたり、気体を吸ったりすると、血管が拡張されるから、高齢者とか血管が狭くなっている人が摂取すると、身体が楽になるのよ」
「へぇ・・・そういうことだったんですね。てっきり、反乱を起こそうとしてるのかと思いましたよ」
「まぁ、その可能性も否定は出来ないけど」
「え・・・」
そして、ユリアの指示の下、ノースフォートレスの治安について調査が行われることになったり、ならなかったり・・・。
「それにしても、良く自然界でニトログリセリンなんて生成されたわね・・・しかも、泉からとか。この国の要塞の泉からは、ほんと碌なものが湧かないわね・・・」
そう言いながら、サウスフォートレスのマナを思い出すワルツ。
この分だと、ウエストフォートレスやイーストフォートレスでも、得体の知れない何かが湧き出ているのではないだろうか。
「・・・なんでしたら調べてみましょうか?」
「いや、別にわざわざ調べなくてもいいわよ。そのうち分かるでしょ」
どうやらワルツは、近いうちに、ウエストフォートレスやイーストフォートレスへと足を運ぶつもりらしい。
そんなやり取りをしていると、徐ろにユリアが話題を変える。
「・・・あの、ワルツ様?」
先ほどとは違い、神妙な面持ちをワルツに向けるユリア。
「・・・シリウス様のところへ派遣する使節の役割、私に任せていただけないでしょうか?」
どうやら、ニトログリセリンの件をワルツに聞きに来たのは話のついでで、使節の話が本題だったようである。
「貴女ならそう言うと思ってたわ」
「なら・・・」
ユリアは、シリウスの元部下なのである。
シリウスを知らない人間が行くよりも、ユリアが行って話を付けた方がいいことは明白であった。
その上、彼女はミッドエデンの情報部部長なのである。
役柄としても遜色ないだろう。
・・・しかし、
「いえ。今回の件は、まだ誰を行かせるかっていうのは、決めてないのよ。決まってないんじゃなくて、決めてないっていうのがミソね」
そんな否定的とも肯定的とも取れる含みのある言葉を残すワルツ。
「・・・何かお考えがあるんですね?」
「いや、無いわよ?」
「えっ・・・」
「無いけど・・・まぁ、色々あるのよ」
「はあ・・・」
複雑な事情があるのだと、ユリアは思うことにした。
「ところでユリア?今日はシルビアが一緒じゃないのね?」
「後輩ちゃんですか?いえ、今日も一緒に行動してますよ?後輩ちゃんは、今、エネルギアの方に忘れ物を取りに行ってるみたいです」
そう言いながら、エネルギア(飛行艇)に視線を向けるユリア。
「・・・貴女はちゃんと、エネルギアのことをエネルギアって言ってくれるのね?」
「はい。もちろん、ワルツ様が名づけられた飛行艇なので」
「あ、そういうことね・・・」
エネルギアの名前を嬉しそうに話すユリアの姿に、合点がいったワルツ。
「・・・そういえば・・・ノースフォートレスにはシルビアも一緒に行ってたわよね?」
「えぇ。何かありました?」
「・・・ニトログリセリン、シルビアも持ってるんじゃない?」
「あっ・・・」
ドゴォォォォン!!
・・・そして唐突に、エネルギアが爆発した。
最近、主殿の仲間内で、狐娘を描くというのが流行っておったらしいのじゃが・・・なんと、妾の絵を描こうとして、描けなかったという嘆かわしいことがあったようなのじゃ・・・。
全く、けしからんのう・・・。
ん?コルの絵は描ける?
・・・主殿・・・最近、妾に冷たくないかのう・・・。




