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14.6-12 支援12

 無事に学院へと戻ってきたジョセフィーヌとミレニアは、今回の一件を口外しないことにした。口外したとしても、学生たちの危機感を無闇矢鱈と煽るだけであり、メリットは何も無かったからだ。


 理由は他にもたくさんあるが、もう一つだけその理由を挙げるなら、ポテンティアが常時、学院内や周辺の森を警戒している事が上げられるだろう。ジョセフィーヌはポテンティアが誰の関係者なのかについて気付いていたので、現状の警備状況がこれ以上の望めないほどに恵まれた状態にあることを知っていたのである。実際、誰一人として怪我人も犠牲者も出すことなく、無事に学院へと戻ってきていることが何よりの証拠だと言えよう。


 ゆえに、ジョセフィーヌとミレニアが誘拐されても、大きな問題にはならなかった。学院は今日も平常運転。特に変わった事はない——というのは言い過ぎで、1点だけ変わった事がある。


「…………」げっそり


 優等生であるはずのミレニアが、目の下に大きな隈を作っていたのである。寝不足らしい。


 しかも——、


「はぁ……」


——と、3分おきに溜息を吐く始末。いつも通りの彼女とは言い難かった。


 ちなみに、無事にミレニアが戻ってきた事で、学院のマグネアは、敢えて言うまでもなく喜んでいた。その上で、今日一日は自室で休むべきではないかと孫娘のことを心配していたようである。


 それをミレニアは断った。彼女の体調に問題は無く、精神的なダメージも受けたわけでもないからだ。


 しかし、誰の目から見ても——


「はぁ……」


——と口にするミレニアは、精神に何か問題を抱えているようにしか見えなかった。昨日、ミレニアが突如としていなくなった事については、体調不良が原因だと伝えられていたこともあり、クラスメイトたちは皆、ミレニアのことを心配している様子だ。


 授業の合間の休み時間。皆がミレニアに事情を聞こうかどうか悩んでいる中で、彼女とは長い付き合いである幼なじみのジャック少年が、深く考えずに問いかける。


「おい、ミレニア。溜息ばかり吐いてどうしたんだ?なんか変なモノでも食ったのか?」


「……はぁ。何でもないわ」


「また溜息を吐いてるぞ……。だからあれほど落ちてるモノは食うなって言ったのに……」


 そう言ってジャックは身構えた。大抵、こう言う場合は、ミレニアから鋭い一撃が飛んでくるはずだからだ。


 しかし——、


   シーン……


——いくら待てども、ミレニアから一撃は飛んでこない。そのせいか、ジャックはより大きな不安に駆られたようだ。


「……ミレニア。今日のお前、ホント、何かおかしいぞ?体調が悪いならすぐに言えよな?」


「大丈夫だから放っておいて」


 ミレニアから飛んできたのは拒絶の言葉。それを聞いたジャックは、本当に放っておくべきか否かを悩むものの、ミレニアの体調が良いようには見えなかったためか、言われたとおりに放っておくことにしたようである。彼女が不機嫌なときに拒絶されるのは今回が初めてではなく、今までも何度かあったので、そのうちまた元気になると思ったらしい。


 しかし、ミレニアは、ある意味重傷だった。


「(どうしてかしら……。"彼"のことを考えれば考えるほど頭が重くなってくる……そんな気がするわ……)」


 ジャックが離れていった事にも気付かず、ミレニアは考え込んだ。一体何が原因で、どうすれば解決するのか……。しかし答えは見つからず、考えるほどにド壺にハマっていくかのよう。


 ただ、まったく答えが見つからないというわけでもなかったらしく、彼女にはヒントのようなものが見えていたようである。


「(……お昼休みになったら、"彼"のことを探しに行くしか無いわね)」


 名前が聞けなかった"彼"——ポテンティアに会いに行って、今度こそ名前を聞く……。それしか、この悶々とした気分を拭い去ることはできない……。その瞬間、ミレニアの気持ちは固まった。


 それからは彼女の溜息も止まったようである。落ち着きを取り戻した様子のミレニアを前に、ジャック少年も安堵していたようだ。


 そして午前中の授業が終わった昼休み。ミレニアはトップアスリートも顔負けな勢いで、近くの教室へと向かって一目散に駆けだしたのである。……あまりの勢いに驚きを隠せない、ジャックやクラスメイトたちを置き去りにして。


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