14.6-07 支援7
『(さて、どうしたものでしょう?)』
ミレニアとジョセフィーヌを無事救出したポテンティアは、しかし内心で頭を悩ませていた。どうやってミレニアたちを学院に戻そうかと考えていたのだ。
今、彼らがいる場所は、学院を囲む森の外縁部。直線距離にすれば数十キロ程度と大した距離ではなかったが、森の中を草木を分けて歩くとなれば、1〜2週間以上は掛かる距離であり……。また、街道をグルリと回って進んだとしても、5日は掛かりそうな場所だった。
転移魔法が使えれば一瞬である。あるいは元の戦艦の姿に戻って空を飛んで移動しても、ひとっ飛びの距離だ。しかし、マイクロマシン集合体であるポテンティアには転移魔法は使えず、またミレニアとジョセフィーヌたちに元の姿を見られるわけにもいかなかったので、現状、彼には為す術は無く悩んでいた、というわけだ。
『(途中まで歩いて移動しつつ、誰かに迎えに来て貰うしか無さそうですね……)』
どれくらいの長旅になるのだろうか……。ミレニアとジョセフィーヌたちは旅に耐えられるだろうか……。ポテンティアはそんな事を考えながら、頭の中で、ワルツたちにの側にいる別の自分と通信を始めた。
『(お疲れ様です。僕)』
『(おや?どうしたのですか?僕。今、ジョセフィーヌ様とミレニア様が誘拐されてしまって取り込み中なのですが……)』
『(実は、ジョセフィーヌ様とミレニア様を無事に保護したのですよ)』
『(なんと!それは朗報です。すぐ目の前にワルツ様たちがいるので、伝えておきますね。場所はどこですか?)』
『(斯く斯く云々……)』
『(……ふむ。なるほど。森の外縁部ですか。随分と遠いところに転移させられたようですね)』
『(えぇ、そうなのです。仕方がないので、地面を移動して帰ろうと思います。このままでは時間が掛かりそうなので、迎えの馬車か転移魔法使いを手配して貰えると助かるのですが……)」
『(分かりました。移動手段の手配は任せて下さい。ちなみに、その場で僕たちの到着を待つのは如何でしょう?)」
『(冒険者たちが戻ってくるかも知れません。恐らくは問題無く撃退できるとは思いますが、2人を再び危険な目に遭わせたくはありませんので、移動することを前提に考えています)』
『(了解です)』
という2人の会話に3人目のポテンティアが参加する。
『(お話中、横から失礼します)』
『『(おや?僕ではありませんか。どうかしたのですか?)』』
『(移動方法についての話を聞いていたのですが、僕らが協力して馬車を作るというのは如何でしょう?戦艦に戻った時の姿を見られたくないのですよね?でしたら、戦艦以外の姿に化ければいいのではないかと思うのです)』
『『(ぼ、僕は天才かっ?!)』』
『(自分に褒められても、何も嬉しくないのが悲しいところです……)』
『『(確かに……)』』
そんなやり取りを交わしている内に、4人目のポテンティア、5人目のポテンティアと集まり……。議論は白熱していったようだ。
その間、約10秒。何かを考え込むように宙を見上げて佇んでいるように見えていたポテンティアが、不意に現実世界へと戻ってくる。
『お二人とも。お体にお怪我はありませんか?』
ジェントルな雰囲気を漂わせながら問いかけてくるポテンティアに見つめられたミレニアは、思わず耳の先まで顔を真っ赤に染め上げた。彼女は生まれてこの方、一度も経験したことの無い大きな感情の変化に襲われたのだ。だが、その感情に耐えられるはずもなく……。彼女はポテンティアからスッと目を逸らした。
ただし、何も答えないというのは失礼だと思ったのか——、
「は、はい……。大丈夫です……」
——今にも消え入りそうな声で小さく返答する。
「(こんな学生、初等科にいたかしら?)」
目を逸らしたことで落ちつく事ができたのか、ミレニアはすこしだけ冷静になって考えた。……こんなにも眩しく見える学生が、初等科にいただろうか、と。
「(いないわよね……。いったいどこのクラスなのかしら?)」
年上なのか、年下なのか、少なくとも同い年ではないはず……。今にも跳ねてどこかにいってしまいそうな自身の心を必死になって落ち着けながら、ミレニアが頭を悩ませていると、今まで口を閉ざしていたジョセフィーヌが、ポテンティアへと向かってこう言った。
「その力……もしかして、マスターワルツのご関係者でしょうか?」
その瞬間、ミレニアの背筋に、ビビッと電流のようなものが走る。最近、学院に入学してきたばかりのよく分からない集団がいたことを思い出したのだ。
真実に近付いたと確信したミレニアは、ハッとした表情を浮かべながら、ポテンティアの顔を見上げた。事実を問い質そうとしたのだ。すると、吐息が届きそうなほど超近距離(2m先)に、優しげに苦笑するポテンティアの笑顔があって……。ミレニアは再び俯いてしまう。
『(いったい、ミレニア様は先ほどから何をされているのでしょう?首の運動でしょうか?)』
ポテンティアはミレニアのことを心配しつつも、誰何を問いかけてきていたジョセフィーヌに向かってゆっくりと首を横に振って……。それ以上は言わないように、と副音声で釘を刺したのであった。




