14.6-03 支援3
「しっかし、誰にも見られずに物資輸送をしちゃうとか、流石はポテンティアよね!」
午前中の授業も難なくこなした後。いつもの4人だけで昼食をとる教室の中、ワルツは感心した様子でポテンティアのことを褒めていた。ハイスピアから聞く限り、ポテンティアの姿を見かけた者は誰もいないというのだ。学院の敷地内では多くの人々が暮らしているのだから、何人かは空中戦艦の姿を見ていて、十中八九、大騒ぎになるだろうとワルツは考えていたのだが、実際にはそうはならなかったので、彼女は純粋に感心していたようである。もしも誰かに見られていた際は、余計な後始末をしなくてはならないからだ。
そんなワルツがいた食事の席には、ルシアたちの他、話題に上がっていたポテンティア本人もいたようである。ただ、彼の場合は、人の姿は取っておらず、今日もカサカサと動く黒い昆虫のような姿をしていたようだが。
『お褒めにあずかり光栄です。ところで、次は食料品を輸送してこようと考えているのですが、現状、問題が発生しております』
「うん?問題?」
『カタリナ様や、コルテックス様が心配されているのです』
「……そう。そうよね……私たち、半ば無理矢理学院に来てるんだし……」
『あ、いえ。そうではなくて、検疫上の問題を懸念されています。大陸が異なりますから、本来、こちらの大陸には存在しない生物、細菌などを、ミッドエデン側から持ち込んでしまう可能性について、皆さん心配しているのです』
「あ、そっちね……。ってことは、火が通ったものとか、乾物とか、そういったものが中心になるのかしら?」
とワルツが口にしたところで、ルシアが顔を青ざめさせる。
「ちょ、ちょっと待って!それってもしかして……お寿司も運べないってこと?!」
「まぁ、そうなるわね。火は通ってるけど、検疫を考えたような調理方法にはなっていないと思うし」
『えぇ。検疫を気にしなくても良いお寿司を開発する必要がありますが、すぐには無理だと思います』
「そ、それは困るよ!もう残量も少ないのに……。全部無くなったら私……どうすれば……」
「「『…………』」」
ルシアの大げさな反応を前に、事情を知っているワルツ、テレサ、ポテンティアの2人+1匹は、思わず顔を見合わせた。全員がルシアに対してツッコミを入れるかどうかで悩んだのだ。……別に稲荷寿司がなくても生きていけるだろう、と。
しかし、ワルツたちがその問いかけを口にしなかったのは、ルシアから稲荷寿司を取り上げると何が起こるのか分からないという懸念を抱えていたからである。この世界は、ルシアの機嫌1つで、軽々と消し飛ぶ可能性があるのだ。彼女のバイオリズムとメンタリズムの鍵を握ると言っても過言では無い"稲荷寿司"という代物に、誰が好きで触れたいと思うだろうか。
ワルツたちが、ツッコミ1つで世界が滅ぶかも知れないという綱渡りをしている中、その場で唯一何も知らなかったアステリアが、不思議そうにルシアへと問いかけた。
「"おすし"って、ルシア様が食べてるそのお料理のことですか?」
「うん。そうだよ?」
「ルシア様はいつもそればかりを食べていますけど、それってそんなに美味しいんですか?」
「…………」
ルシアはアステリアの問いかけに黙り込んだ。そう、すぐに"美味しい"と即答しなかったのだ。
そんな彼女の反応を見ていたワルツ、テレサ、ポテンティアは、みな揃って、今度は驚いたような表情を浮かべた。ルシアが稲荷寿司のことを美味しいと答えるものだと思っていたからだ。
まさか、美味しくないのに食べているのか……。皆がルシアの返答を静かに待っていると、ルシアは「はぁ……」と溜息を吐いて、そしてこう答えた。
「出来たてはものすごく美味しいよ?冷えても、まぁ、美味しいかなぁ?でも……冷凍した後のお寿司は、硬いし、食感も微妙だし、味も何か変だし……。まぁ、美味しくないとは言わないけど、美味しいとも言えないかなぁ」
ルシアのその発言に、ワルツたちは耳を疑う。ルシアはいったい何のために、稲荷寿司を食べ続けているのか、と。
そんな姉たちの視線に気付いたのか、ルシアはワルツたちが何を考えているのか察して、苦笑を浮かべた。そして、なぜ美味しくもない稲荷寿司を拘って食べているのか、その理由を説明しようとした——そんな時。
『おっと。またあの方が近付いてきたみたいです。昨日と同じように、今日も意識を刈り取りましょうか?』
ポテンティアがそんなことを言い出す。どうやら今日も、ワルツたちの教室に、ミレニアが近付いてきていたようだ。
稲荷寿司は美味しいのじゃ。……ごく普通に作られておる限りは、の(怒)。




