14.6-02 支援2
一方その頃。とある女学生は、何か悩みを抱えているのか、険しい表情を浮かべながら教室の自席で考え込んでいた。ミレニア=カインベルク。学院長の孫である。
どういう方法で若作りをしているのかは不明だが、学院長はとても若く見えていて、むしろ少女とすら言えるくらいの見た目だった。その孫であるミレニアも、年齢の割に比較的幼く見えがちではあるのだが……。考え込む彼女の今の姿は、むしろ年の割に老けて見えていて、学院長よりも年上にすら見えていたようである。
一体彼女は何を考え込んでいるのか……。幼なじみでありクラスメイトでもある少年のジャックが、ミレニアの様子に気付いて、問いかけた。
「おい、ニア。お前、最近……老けたか?」
ドゴォォォォッ!!
拳がノーモーションからの超加速。ミレニアの鉄拳がジャックの腹部にめり込む。ちなみに反時計回転だ。
「かはっ?!」ドサッ
致命傷だった。ジャックはそのままその場に崩れ、短い人生を終えることになる。……そんな幻覚をジャックは見た。
「お、俺……生きてる……」
「死ねば良かったのに。女の子に年齢の話は失礼よ」
「こ、言葉より先に手が出る癖、どうにかしr——」
「ん?何か言った?」ゴゴゴゴゴ
「……いや、なにも……」
ジャックは言葉を飲み込むと、様々な理由で震えていた足に渇を入れながら、どうにかこうにか立ち上がった。
そして、膝の震えを誤魔化すように問いかける。
「そ、それで、なにを悩んでんだ?何か難解な授業の内容でもあったか?お前が悩む授業とか、絶望しか感じないんだが……」
ジャックの問いかけに、ミレニアは深く溜息を吐いた。
「……馬鹿にしないで聞いて貰えるなら話すけど、聞く?もしも馬鹿にしたら、八つ裂きじゃ済まさないから」
「お、おう……任せとけ!人の話を黙って聞くことには自信があるんだ」
「…………」じとぉ
「……何だよ?」
「……まぁ、いいわ。実はね……私、見ちゃったのよ」
「……いや、ちょっと待て。その話の展開だと、ニアが見たのはアレか?幽霊か何かの類いって事か?!」
「声が大きいわよ」
教室の中には、普段通りの数の生徒たちが集まっていた。学生たちは、寮の引きこもり事件や、魔力の濁流に飲み込まれた事による昏倒事件などから既に復帰しており、久しぶりに全員が揃っていたのである。
そんな環境だったこともあり、ミレニアとしては、かなり気を遣っていたようだ。彼女の話——幽霊の話は、たとえファンタジー溢れるこの世界であっても、オカルトの域を出ない話だからだ。
ミレニアに指摘されて周囲の目線を気にしたのか、ジャックは声を小さくして再び問いかけた。
「悪ぃ悪ぃ。それで、何を見たんだ?まさか、レイスやスケルトンの類いが学院内でうろついていたとか、そんな恐ろしい事は言わないよな?夜に便所に行けなくなるぜ……」
「何、子どもみたいなことを言ってるのよ……。アンデッドくらい、自力で倒せばいいじゃない」
「お、おう……っていうか、お前、何に悩んでるんだ?アンデッドを自力で倒せるなら、怖い物なんて何もないだろ……」
「私が見たのはそういうのじゃなくて……何て言えば良いのかしら……」
「……?」
「……あれは真夜中の事よ。夜に目が覚めて、どうしても寝られなかったの(なぜか昼間に気を失っちゃったせいでね……)」
「お、おう……」
「それでね……。少し夜風に当たろうと思って、女子寮の屋上に上がったのよ。そうしたら……空に浮かんでいたの。夜の暗闇に溶けるような、真っ黒くて大きな影のようなものが……」
「お、お前……それやっぱり、レイスか何か——」
「さぁね。確認してはいないから確証は持てないわ?でも、多分、アンデッドじゃないと思うのよ。それに、噂になってるでしょ?この学院に、誰から送られてきたのかも分からない高級な物資が山のように届けられたって。それで、私、思ったの。あの巨大な影が、大量の物資を運んできたんじゃないか、って」
「は?幽霊が?いやいや、そんな馬鹿馬鹿s——」
ドゴォォォォッ!!
「ぐぬふっ……み、鳩尾は……鳩尾はやめr……」ガクッ
「はぁ……。これだから、男子は野蛮で困るのよね……」
隣の席で夢の世界に旅立ったジャックに軽蔑の目を向けた後、ミレニアは再び思考を巡らせた。その際、彼女の脳裏には——、
「(もしかして、あの娘たちが関係していたりするのかしら?)」
——と、獣人の少女たちの姿が浮かんでいたようだが、関連性は見いだせず……。4人の姿は、ミレニアの思考の奥底へと沈んでいったようである。
ちなみにジャックは騎士科なのじゃ。




