14.6-01 支援1
未だ夜が明ける前、空中戦艦ポテンティアによるミッドエデンからの物資の輸送が行われた。今回、ワルツたちが住む村と学院に届けられたのは、食料品以外の大量の物資。商隊が来てからさほど時間は経っていないことから、食料品には困っていないので、まずは日用品の輸送が行われたのである。……それも、音も無く、秘密裏に。
翌朝、村と学院は騒ぎになっていた。昨日までは無かったはずの物資が山のように積み上げられていたのだから、当然だ。商隊どころか軍隊を動員したとしてもそう簡単に運べるような量ではなく、皆、言葉を失っていたようだ。そんな彼らは内心でこう思って否に違いない。……あまりに量が多過ぎだろう、と。
何より皆が目を疑ったのは、物資の質である。一つ一つがまるで伝統工芸品のようにしっかりとした品質で、公都で買おうとすれば、超一級品だけを厳選して買わなければ手に入らないような代物ばかり。その他にも鉄鋼材料なども置かれていたが、レストフェン大公国の工業レベルでは実現不可能なほど高純度のものしかなく……。そればかりか、レストフェン大公国では精錬不可能なオリハルコン塊なども含まれていた。
もはや、村人たちにも学院の関係者にも、何も言えないレベルだった。いわゆる、笑うしかない、という状態に陥っていた者までいたようである。具体的にはハイスピアがその例だ。
結果、登校したワルツたちは、学院長マグネアに呼び出されることになった。彼女はすぐさま、ワルツたちが大量の物資の提供と関係していることを見抜いたのだ。
「あれは……あの山のような……いえ、山の物資は、どういうことなのでしょう?」
マグネアは、学院長室に呼び出したワルツたちに対し、ストレートに問いかけた。もはや、ワルツたちが今回の一件に関与していないなどとは微塵も考えていない様子だ。
対する4人の内、特にワルツは、呼び出された当初こそ何を聞かれるのだろうかとビクビクとしていたようである。学院長室に呼び出しを食らう理由について、片手で数え切れないくらい覚えがあったからだ。しかし、物資について問いかけられたのだと察してからは、随分と落ち着いて……。ありのままの事実を、そのまま答えることにしたようである。
「あの物資は、ウチの国からの支援物資です。夜の内に運んで貰いました」
「あれほどの量をいつの間にどうやって……」
「(……なるほど。ポテンティアったら、ちゃんと誰にも見られないように運んだのね)」
ワルツは内心でポテンティアに賛辞を送った。もしも彼の姿が——全長300mを越える空中戦艦ポテンティアの姿がマグネアたちに見られていたなら、ワルツたちはより面倒な追求に対応をしなければならなかったはずだからだ。場合によっては、テレサの言霊魔法を使って、学院関係者全員の記憶を書き換えることも必要になっていたことだろう。
「どうやってと言われましても、私たちは自宅で眠っていたので詳しくは分かりません」
もしも本当の事を話したなら、マグネアはどんな表情を浮かべるのだろうか、と想像しながら、ワルツは首を横に振った。とはいえ、彼女は嘘を言っているわけではない。彼女も、ポテンティアが物資を輸送した瞬間を見ていないからだ。少なくとも、ミッドエデンには、ポテンティアと同型の艦が2隻いて、その他、大量の物資を転移魔法で輸送してしまう魔女や評議会議長がいるのだから、間違いなくポテンティアが運んだとは言えないのだ。
方法を問いかけても、まともに答えるつもりのなさそうなワルツに対し、マグネアはジト目を向けてから——、
「はぁ……。あなた方の国からの支援物資だということは分かりました」
——詳細を聞くことを諦めることにしたようである。彼女としても、藪蛇の気配を感じていたようである。
「しかし、このタイミングでどうして支援物資など送ってきたのです?もちろん、嬉しいことは嬉しいですが、現状、我々は、物資に困ってはいないのですが……」
そこに副音声が含まれているとすれば、"定期的に商隊が物資を運んできてくれるので"、という理由付けが隠れていることだろう。もしもその副音声にワルツが気付いていたなら、彼女は今頃取り乱して、明後日の方向に視線を逸らしていたに違いない。
しかし、今回の場合、ワルツはマグネアの副音声に気付かなかったようだ。彼女は首を傾げながら、こう口にする。
「ちょっと私には分からないです。送るという連絡は受けていましたけれど、どんな理由があるのかまでは聞いていませんでした。まぁ、タダでくれるというのですから、貰っておいて良いと思いますよ?」
対するマグネアは考え込む。もちろん、ワルツたちの意図だ。下手をすれば、一国の国家予算に匹敵するような額の支援物資が届けられたのだから、そこに何かしらの意図が隠されていると疑うのは自然な事だった。
そんなマグネアに、ワルツが一言。
「邪魔なら持って帰らせますけど……」
その結果、マグネアが、どんな決定を下したのかは、言うでもないだろう。




