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14.5-30 学生生活30

 2人の少女たちの登場で災難を被ったのは村人たちである。別に悪いことをしていないというのに、逃げ場無く魔力の濁流に呑み込まれたのだ。これがもしもルシアの仕業だと分かっていたなら、村人たちは皆、彼女に対して、激怒していたことだろう。


 ただ、村人たちを襲った魔力は、学院でテレサが幻影魔法を解除したときほどの威力は無かったようである。一時的にルシアが魔力の出力を上げはしたものの、テレサの幻影魔法は効果を維持していて、魔力のすべてが村人たちに襲い掛かったというわけではないからだ。


 とはいえ、昏倒しない程度の半端な魔力の大きさが、その場の者たちにとって必ずしも幸いだったかというと、微妙なところである。場合によっては意識を失った方が楽になれることもあるからだ。


 なにしろ、世の中には——、


「商隊が来てるのはいいけどさ……。獣人の皆さんや、アーちゃんとか騎士さんたちに武器を向けるって、どういうことなのかなぁ?」ゴゴゴゴゴ


——知らない方が幸せだと思えるようなことが、満ちあふれているのだから。


 テレサの幻影魔法の効果が切れていないとはいえ、魔力の濁流の根源たるルシアが一歩二歩と商隊の隊列へと近付くと、そのたびに商隊のメンバーたちのことを、言い知れぬ圧力が襲い掛かる掛かる。ついには、馬車を引っ張っていた馬たちが暴れてバラバラの方向に逃げ出そうとする始末だ。そのせいで、商隊はバラバラになり、馬車は横転し、その中身を表にばらまくことになる。それでも怪我人が出なかったのは、不幸中の幸いか、あるいは何か大きな力が働いたせいか。


 そんな商隊の隊列を涼しい顔で見ながら、ルシアは言った。


「もったいないけど、しかたないよね」


 その瞬間、馬車と荷物が炎を上げて燃え上がる。眩い炎だ。マグネシウムが激しく燃えるように、商隊の荷物と馬車が、直視出来ないほどの輝きを放ちながら、燃え上がったのだ。それも物質の内側から。ルシアの火魔法が発動した結果だ。


 一瞬にして超高温に熱せられた馬車や荷物は、小さな爆発を起こしながら四散しつつ、瞬く間に灰へと変わる。燃えやすい紙も、燃えない陶器も、あるいは金属でできた硬貨ですら関係無い。皆平等に灰に変わる。


 結果、その場には、引く馬車が無くなって逃げ惑う馬たちと、商隊のメンバー、それに捕まった獣人たちだけが取り残されるという状態になる。そんな状況の中で、ルシアが商隊の面々に向かって問いかけた。


「責任者は誰かなぁ?」


 ルシアから放たれる、この世のモノとは思えないような圧倒的魔力を前に、商隊のメンバーたちはまともに立ち上がれない様子で、一人の青年の方へと視線を向けた。商隊のリーダーだ。


 彼もまたルシアの魔力の影響を受け、三半規管が混乱して前後不覚の状態に陥っていたようだが、それでも今ここで返答しなければ、どんな事になるか予想出来なかったらしく、必死になってその口から言葉を紡ごうとする。が——、


「まぁいいや。アーちゃんから後で事情を聞くから」


「えっ」


   ズドォォォォン!!


——彼が口を開く前に、ルシアが回復魔法を放つ。公都からやってきた兵士たちを熨したのと同じ回復魔法だ。あまりの衝撃に商隊のリーダーの服はビリビリになって飛び散るが、回復魔法の効果によって彼の身体は無傷で済み……。結果的に彼は、素っ裸になってしまう。


 ただ、彼は幸いなことに、羞恥心を感じなくて済んだようだ。あまりの衝撃に、意識が吹き飛んでしまったからだ。尤も、意識を取り戻したときに服を着ているとは限らないが。


「この人、ちょっと許せないから、このまま公都の大通りのど真ん中に送るね?」ブゥン


 ルシアの転移魔法により、商隊のリーダーの姿が消える。彼女の言葉が正しいとするなら、商隊のリーダーは今この瞬間、公都の大通りに転移させられて、社会的に死んでしまったことだろう。


「じゃぁ、次」


「「「ひぃっ?!」」」


   ズドォォォォン!!


 その後も、商隊のメンバーに、理不尽な暴力が襲い掛かる。全員、身ぐるみを剥がされて、意識を奪われ……。そして転移魔法で公都へと送られたのだ。


 そんな彼らは、目を覚ました後で、商業ギルドや憲兵隊の施設に駆け込んだようである。そして、とある村で獣人の少女に襲われて、身ぐるみを剥がされて、転移させられたと訴えた。


 だが、彼らは信じて貰えなかった。この大陸にいる獣人たちは魔法が使えないと言うのが常識。その上、彼らが襲われたと主張した村から公都までの距離は相当あって、その間を何十人もいる商隊のメンバー全員を転移させるなど、非常識極まりないことだったからだ。


 ゆえに彼らは信じて貰えず、裸で公都を練り歩いたという噂が広がり、公の場から姿を消すことになる。そんな彼らは、常識に殺害された、と言っても良いかも知れない。まぁ、実際に死んだわけではないのだが……。


そろそろ、社会的抹殺の別の方法を考えた方が良いかも知れぬ、と思わなくもない今日この頃なのじゃ。

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