表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2614/3387

14.5-28 学生生活28

 ワルツたちが異変を察知したのは、日が暮れて、夕食を食べる直前の事だ。普段なら食事の手伝いをしているはずのアステリアが、時間になっても帰宅しなかったのだ。


 ちなみにアステリアは、外に出かけたわけではない。地下空間の隣人宅に、肉の塊をお裾分けしに出かけていたのである。


 本来であればそのお裾分けは、ごく短時間で終わるはずだった。肉を渡して一言二言、会話を交わせば終わりのはずだからだ。地底にある隣家すべてにお裾分けをしたとしても、2時間も掛かるなどありえないことだった。


「アーちゃん、なんか遅くない?」


「ばぁちゃん?」

「アーちゃん?」


「アステリアちゃんの呼び名」


「あぁ……アーちゃんね……アーちゃん……(そのあだ名の付け方だと、最初の文字が"ア"の人は、全員アーちゃんになるわよね?っていうか、ルシアだって、テレサから"ア嬢"って言われてるんだから……もうカオスよね。まぁ、誰のことを言っているのかは雰囲気で分かるけど)」

「ふむ……。たしかにあやつ、帰りが遅いのう……。いったいどこまで差し入れに出かけておるのか……」


「いつもこの時間になったら、すっごく嬉しそうに夕食を作ってるはずなのに、いないって……ちょっとおかしくないかなぁ?」


 今日は夕食は獲れたての牡丹肉を使った肉料理で、アステリアの大好物。ジュウジュウと焼けるステーキの音だけで、どんぶり野菜3杯は食べられると豪語する彼女がキッチンにいないというのは不自然極まりない事だった。


 エプロン姿のテレサも、料理をしながら、疑問に思っていたようである。


「仕方ない。ア嬢?お主、どうせ暇じゃろ?ちょっとアステリア殿の様子を見てくるのじゃ。あと5分以内に帰ってこなければ、肉がウェルダンになると伝えて欲しいのじゃ。10分経ったら炭化する、ともの。そうすれば、あやつ、転移魔法か何かで帰ってくるはずなのじゃ。……まあ、転移魔法が使えるか知らぬが」


「仕方ないなぁ……」

「私も行くわ?」


「む?もしや。妾だけ留守番とな?くっ!抜かったのじゃ……!ワルツと二人きりになれると思ったのに……」


 やり取りの結果、テレサは一人だけ留守番をすることになった。この時、彼女は、自分の発言に少なくない後悔を感じていたようだが、夕食作りを投げ出すわけにも行かず……。一人寂しく、夕食作りを進める事にしたようだ。


 そんなこんなでワルツとルシアは、地下空間にあった近所の家の前をアステリアを探しながら歩き回った。そこで彼女たちは気付くことになる。


「あれ?人、少なくない?」

「あんまりいないね?」


 誰もいない、というわけではなかったものの、地底の家々にはほとんど人がおらず、人の気配があまり感じられなかった。当然、アステリアの姿も見えない。


「なんでだろ……」

「外に行ったんじゃないかなぁ?」


 地底にいないのだから、消去法的に、地上へと出かけたとしか考えられない……。そんな予想を立てながら、ワルツたちが地底を歩いていると、彼女たちと同じように同居人が帰ってこないことに不安を感じた獣人たちと騎士たちが会話している場面に2人は出会(でくわ)した。


 それによると、獣人たちだけでなく、表に訓練へと出かけた騎士たちも戻ってきていないのだとか。その話を聞いたワルツたちは、言い知れぬ不安に襲われる。


「これ……地上で何かあったみたいね?」

「うん……」


 そう言って2人は、不安げな視線を、茶色い空へと向けたのである。


  ◇


 外では、ワルツたちの予想通り、予想外の出来事が生じていた。いったい何がおこっていたのかというと——、


「しょ、商隊を襲うなど許されることではありませんよ?!」


「なら、即刻、同胞たちを返すのです!」


——アステリアが商隊と睨み合っていたのだ。正確には、アステリアを始めとした騎士たちや村人たちが、商隊と睨み合っていた、と表現すべきか。


 事の発端は、地底の家々だけでは肉を配りきれなかったアステリアが、地上の村長のところにも肉を配ろうと思ったことが始まりだった。アステリアが地上に来た時点で、商隊は、村人たちの制止を聞かずに、魔法を使える獣人たちを片っ端から捕まえていたのである。


 捕まえられていた獣人たちは、何がなんだか分からない様子だった。皆、混乱していたらしい。首輪や鎖を付けられても、それに抗う様子は見られなかった。


 そんな中で、アステリアは、連れていかれそうになっていた獣人たちに気付き、抗議の声を上げたのだ。そんな彼女に追従するように、騎士たちや村人たちも集まり……。結果、商隊の包囲網が完成していた、というわけだ。村人たちは、当初、商隊の行動に為す術なく呆然として立ちすくんでいたようだが、アステリアの一声を聞いて、我に返ったようである。……このままではいけない、と。


 ただ、アステリアたちは、商隊を強引に制圧する事は出来なかった。獣人の仲間たちを人質に捕らえられてしまっているからだ。彼女に同調した騎士たちも、商隊に剣を向けることは出来ない。商隊が行った行為は、レストフェン大公国において合法的な行為だからである。法を守る者が法を破るわけにはいかないというジレンマがあったのだ。


 しかし、法律で定められているからといって、誘拐紛いの方法で隣人を連れていくというのは、許せることではなかった。ゆえに、アステリアたちは、武器を持たずに商隊を取り囲んで、獣人たちの解放を主張する。


「やっていいことと、悪いことの区別くらい付きますよね?彼らは私たちの家族みたいなものです!即刻、解放して下さい!」


 ところが、一旦、獣人たちを捕まえてしまった商隊のほうは、獣人たちの解放に応じようとはしない。たとえ、この村と関係が悪くなって商いが出来なくなったとしても、魔法を使える獣人たちという名の金の卵を公都に持ち帰った方が、短期的にも長期的にも大きな利益を得られるからだ。


 ゆえに彼らは法の盾を振りかざす。


「そんなことは知ったことではありません!レストフェン大公国の法が、私たちの行動がただ良いことを証明してくれます!これ以上、私たちの事を妨害するというのなら、正当防衛として強行突破しますがよろしいですね?その上で、公都に戻り、"賊"が現れたと通報さて頂きます!」


 そう言って、アステリアたちの主張を真っ向から突っぱねる商隊のリーダー。


 ……といったように、ワルツたちが地上でアステリアのことを探している間、地上では、2つの正義が火花を散らしていたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ