14.5-26 学生生活26
山菜の収穫を終えて帰宅最中。森の中を歩くワルツは、他のメンバーに向かって問いかけた。
「なんかさ……冒険者、多くない?」
「うん……」
「みなさん、ジョセフィーヌ様の命を狙ってやってきたのでしょうか?」
「さぁのう?全部が全部ではないと思うのじゃ」
ワルツたちが山菜の収穫をしていると、最初に見つけた素っ裸の冒険者のような者たちが何人かいて……。それ以外にも、人と思しき気配がチラホラと見受けられていた。今や森の中は、魔物の数よりも、人の数の方が多いと言えるかも知れない。
「素っ裸の変質者ばかりが潜む森ねぇ……。普通に考えたら、危険極まりない森よね。でも、誰も近寄ってこないとか……」
冒険者たちは、ワルツたち一行の気配を感じる取ると、自発的に離れていくばかりで、誰一人として、彼女たちには接触してこなかった。皆、ポテンティアによって身ぐるみを剥がされた状態だったので、近寄るに近寄れなかったらしい。レストフェン大公国には、現代世界と同じように、公然でわいせつ物をひけらかす行為を取り締まる法律があったので、ワルツたちに助けを求めることで命が助かったとしても、その代わりに社会的に死亡する可能性を否定出来なかったので逃げるほかなかったようだ。まぁ、男性の冒険者に限った話ではあるが。
散っていく気配を感じてワルツが眉を顰めていると、ルシアが、ふんす、と鼻を鳴らす。
「近付いてきたら、人工太陽の餌食だね!」
と口にするルシアだったものの、冒険者たちが近付いてくることはない。冒険者たちが近付いてこない一番の理由は、ルシアの周囲から漏れ出る魔力を警戒したことが原因だったからだ。テレサがルシアの魔力を隠蔽しているとはいえ完全には隠し切れておらず、また冒険者たちは一般人よりも魔力に敏感だったので、皆、何となくその圧倒的な気配を感じ取れていたのだ。
ゆえに、冒険者たちは幸いだと言えた。もしも彼らが魔力を感じ取れなかったなら——、
「あっ、イノシシの魔物!」
チュィィンッ……ドスゥゥゥンッ!!
——今頃、上半身と下半身がお別れをした冒険者たちが山積みになっていたはずだからだ。具体的には、今、ルシアが狩ったイノシシの魔物のように。
「また大きな魔物を狩ったのう……。しかし、これどうするのじゃ?腐る前に食べきれぬじゃろ。しかも、ア嬢は肉を食べぬし……」
「食べないわけじゃ無いよ?お寿司が好きなだけだもん。とりあえず、お隣さんとか、お隣のお隣さんとか、近所の人に配ればいいんじゃないかなぁ?騎士さんたち、お肉とか好きそうだし」
「多分、皆さん、すごく喜ばれると思いますよ?お肉は高級な食材なので、滅多に食べられないし、とても高いですから」
という、3人のやり取りに、ワルツがニヤリと怪しげな笑みを浮かべる。
「へぇ……。じゃぁ、森でたくさん魔物を狩って、町で売りさばけば——」
「お姉ちゃん……それやったら、すぐに目を付けられるよ?」
「ワルツの嫌いな面倒ごとが勃発するのじゃ。学生をやめるのなら、それでも良いかも知れぬが……」
「私は……マスターワルツの決定に従います!」
「いや、冗談だから。別に肉なんて売らなくても、オリハルコンを作って売りさばけば、大金なんてすぐに——」
「「「………」」」
「……うん。それも冗談」
ワルツは妹たちから向けられる視線に耐えられなくなったのか、スッと視線を逸らした。
◇
そんなやり取りを交わしながら、一行は自宅へと無事に戻ってくる。
村は、賑やかな雰囲気に包まれていて、少なくない人々が出歩いている様子だった。ワルツが地下空間に匿っている獣人たちや、騎士たちも数多く見られ、皆、村の人々と談笑しているようだ。
その様子に、ワルツたちは驚きが隠せなかった。レストフェン大公国では、獣人は虐げられる対象だと聞かされていたというのに、少なくともその場にいた獣人たちは、村人たちと対等に話をしているように見えていたからだ。一体、何が起こったのか……。4人が驚きながら村の様子を見ていると、獣人たちが受け入れられている理由が次第に見えてくる。
そのきっかけは、一人の獣人が、村の民家の軒先にあった薪を——、
スパパンッ!!
——と風魔法を使って、簡単に割ってしまったときのことだった。
「「「すごーい!」」」ぱちぱちぱち
といったように、獣人が魔法を使って薪を割ると、子供たちが嬉しそうに手を叩いてみていたのだ。その他、若者たちや年配の者たちも、薪割りや水くみなど力仕事を魔法で手伝ってくれる獣人たちには感謝している様子で……。そこにいた者たちに、獣人たちを蔑んでいる雰囲気は一切無かったのである。
ワルツは獣人たちと村人たちのやり取りを眺めながら、思わず笑みを浮かべた。
「なるほど……。皆、自分たちの居場所が見つけられたのね」
魔法を使えるようになった獣人たちが、村に居場所を見つけて、村人たちと仲良くなる……。ワルツとしては、そんな光景が好ましく思えたらしい。彼女は今、獣人たちの事を匿うような形になっているが、いつまでも同じ村にはおらず、この先、永久に獣人たちの事を匿うわけにはいかないのである。ゆえに、獣人たちが自立に向けた一歩を踏み出しているような光景は、ワルツにとって喜ぶべきことだったのだ。
このまま順調に自立してくれれば、何も言うことは無い……。ワルツはそんな期待を抱きながら、地下空間に繋がる仮初めの自宅へと戻ったのである。
……遠くの方から、カッポカッポという音が聞こえてくることに気付かずに。




