14.5-25 学生生活25
狩ったイノシシの魔物を自宅へと転移させた後。一行は山菜を採るべく森の中へと入った。下草が短い森の中は、制服を着ている状態でも歩きやすく、一行はどんどんと森の奥へと進んでいった。
そして、ルシアが付けた最初のマーカーの位置まで到達するか否かと行ったところまでやってきた時の事。彼女たちは森の中にとあるモノを見つけてしまう。
「うわぁ……人が倒れているわ……」
ワルツが見つけたのは素っ裸の冒険者だった。生きてはいるようだったが、意識は無い。近くで黒い虫がカサカサと動いていたところを見るに、森の中を警戒していたポテンティアに襲われて、身ぐるみを剥がされてしまったようである。
そんな背景を悟ったワルツは、その場で蠢いていた虫(?)に向かって問いかけた。
「ポテンティア?貴方、冒険者を狩るのは良いけど、ちゃんと死なないように監視してるんでしょうね?人って脆いんだから、ちょっと雨に当たったくらいですぐ死んじゃうんだから」
そう口にするワルツは、ポテンティアに対して、学院に近付くすべての冒険者を例外なく狩るように指示を出していた。敵味方関係無く、だ。ゆえに、無害の冒険者も被害を被るかもしれない現状において冒険者に死なれるというのは、ワルツにとって寝覚めの悪い話だったのである。まぁ、彼女は眠らないので、寝覚め自体存在しないのだが。
ワルツが問いかけると、カサカサと動いていた虫たち(?)が、一斉に彼女の方を向いて、ポテンティアの声で話し始めた。
『えぇ、ご心配されずとも、皆さん無事です。ただ、皆さん目覚めても、洞窟の中に引き籠もったり、木の洞の中に引き籠もったりと、なかなか森から出て行ってくれないのですよ。どうしてなのでしょうね?サービスで魔物から守っている僕の気持ちにもなってほしいものです』
「そりゃ、身ぐるみ剥がして放置しておけば、恥ずかしくて帰れなくなって当然でしょ……」
『なるほど。確かに、人間なら、そういう考え方をするかもしれません。みなさん、僕のように何も隠すこと無く、すべてをさらけ出して生きれば良いのに……』
「ちょっと何言ってるか分からないけど……とにかく、全員が全員、私利私欲に目が眩んだ冒険者とは言えないかもしれないから、引き続き彼らが死なないようにだけ気を配って貰えると助かるわ?」
『ワルツ様の指示とあれば、仕方ありません。冒険者の顔に落書きでもして、鬱憤を晴らしますか……』
そんな事を口にしたポテンティアは、カサカサとどこからともなく大量に集まってくると、ワルツたちの目の前で転がっていた冒険者の男の額に集まって、何やら作業を始めた。その様子はどこからどう見ても捕食しているようにしか見えなかったが、襲っているわけではないらしい。しばらくするとポテンティアの分体は、冒険者の顔から離れていく。
その結果、露わになった冒険須屋の額を見て、一行は思わずツッコミを入れてしまう。
「……これ、スタンプラリーじゃん」
「しかも20回って……これ、20回ポテちゃんにやられないと溜まらないってこと?」
「スタンプが集まれば着ていた服を返すって……余計に森から出ていかなくなるのではなかろうか?」
「なんか……大変ですね……。冒険者って……」
冒険者の額に作られたのは、ただの落書きスタンプラリーではない。レーザーを使った入れ墨である。消すためには、カタリナが使うような特殊な回復魔法か、あるいはポテンティアがレーザーを使って治療しない限り、一生消えることはないだろう。
『皆さんには奮ってご参加いただきたいものです!』
「いやいや、貴方、さっき、森から早く出ていって欲しいって言ってなかった?」
ワルツが問いかけると、カサカサと虫たち(?)が散って、ポテンティアの気配が消える。どうやら、指摘されたくない事だったらしい。
「あの子さ……愉快犯的なところがあるわよね。コルテックスみたいに」
「まぁ、姉弟みたいなものじゃからのう……」
「でも、たまにカタリナお姉ちゃんみたいな一面も見せるよね?」
「カタリナ……うっ?!頭が……っ!」
ポテンティアが去った後、そんなやり取りをしながら一行は森の中を進み……。そして、ルシアの探索魔法を目印に、山菜の採取を始めたのである。




