14.5-24 学生生活24
ワルツたちが通う通学路とも言うべき経路上に店らしき店は無い。村には宿屋が1件あるが、それ以外の店は無く、週に一回、キャラバン隊が来る程度。もしもすぐに買い物がしたいというのなら、最寄りの町(公都)まで行かなければならないが、学業の傍らで歩いて片道3日の距離にある公都に行くというのは、普通の学生には大変な事だった。
ワルツたちの場合は、その例に当てはまらないのだが、しばらくの間、彼女たちは、公都に行く気はなかったようだ。獣人を虐げる文化のある公都に行くなど、メンバーの3/4が獣人を占めるワルツたち一行にとっては、危険極まりないことだからだ。なお、言うまでもない事だが、危険を被るのは、相手側である。
ゆえに、必要な品物は現地調達が基本。普通であれば肉屋や八百屋で買うべき食料も自給自足で確保する。
ズドォォォォン!!
「丁度良かったわね!帰り道で、こんな大きなイノシシを見つけられて」
ちょっとコンビニに寄ったら肉が売っていた、といわんばかりに、嬉しそうな笑みを見せるワルツの傍らには、彼女の身長よりも4倍程は大きなイノシシの魔物が転がっていた。学院と自宅がある村とを繋ぐ陸橋から、大きなイノシシが見えたので、ルシアが転移魔法を使って引き寄せ、そしてワルツが手刀でイノシシの首を飛ばしたのである。ワルツとしては血抜きを兼ねてイノシシにトドメを刺したようだが、おかげで陸橋の上は血の海状態。、通学路とは思えないスプラッタな光景が広がっていたようだ。
しかし、ワルツたちの周囲ではごく日常の出来事だったためか、彼女たちに目立った反応は無い。
「私も大分、この光景になれてしまったみたいです……」
アステリアが肉塊に向かって遠い視線を向けながらポツリと呟いた。すると彼女の言葉にテレサが反応する。
「何を言っておる?アステリア殿。こんなもの、ワルツたちの狩りとは言えぬのじゃ。お主は知っておるか?本物の山のように高く積み上げられた肉の山を!」
「…………いえ。あまり想像したくないです……」
「あの2人にかかれば、一瞬で森の中から魔物たちが集められて、これまた一瞬で血抜きをされるのじゃ。これまで、いったいどれほどの狐が巻き込まれて犠牲になってきたことか……。食べられぬのに狩るとか……あぁ、もったいない!」わなわな
「…………」ブルッ
アステリアは悪寒に襲われたのか、身震いをした。そして思う。
「(森の中に住んでなくて良かった……)」
もしも住む場所を間違っていたなら、今頃彼女は——いや、この話はここで止めておこう。
そんなワルツたちの自給自足は、肉の確保だけでは終わらない。人間という生き物は肉だけ食べていたのでは生きていけないのだ。当然、野菜も必要なのである。
とはいえ、魔物狩りのように豪快な採取はしない。森に生える山菜やキノコといったものは、摘み取ればその時点から鮮度が悪化していくが、摘み取らなければ、食べ頃か否かという違いはあるが、基本的には鮮度を悪化させることなくそのまま保存することが出来るからだ。しかし、一度乱獲して生態系を破壊してしまうようなことをすれば、その場に同じ植物は二度と生えてこなくなるのだから、大切に扱うことは必要な事。いつかは肉となって狩られる(?)魔物たちも、森を利用して大きく成長するのだから、森を大切にすることは当然のことだと言えよう。
ワルツたちもその暗黙のルールをやるぶるつもりはなかった。長い間、森の中で生きてきたワルツにとって、森の大切さは身に染みて分かっていたからだ。逆に言えば——、
ギュゥンッ!!
——森を破壊しなければ何でもありだと言えなくなかった。
森の中を光球が突き抜ける。ルシアの光魔法だ。彼女が図書館で本を探す際に使用した魔法である。そんなものが、森を縫うように木々の隙間を進み、何かを探そうと飛んでいく。
その内に、1つ、また1つと、光球が森の中で停止する。そこにあったのは食用の山菜。そう、ルシアは、光魔法を応用した探索魔法を使って、森の中にある山菜の場所を特定していたのだ。
「山菜を見つけたけど、どうする?お姉ちゃん」
「転移魔法で掘り起こす……っていうのは、地面ごと抉れるから無しね。次の季節に山菜が無くなっちゃうから。そんなわけで……皆で山菜を採りに行きましょうか」
「うん!」
ルシアはそう言って、自分の身長よりも背の低い姉の手を取った。そしてもう片方の手で、アステリアと手を繋ぐのか、それとも別の人物と手を繋ぐのかで悩んだ末、アステリアの手を取る。
その結果、誰とも手を繋げずに、所謂ボッチになってしまったテレサは、大好きなワルツの方へと手を伸ばそうとする、しかし、結局、彼女は勇気が出なかったのか、その手を引っ込めて別の人物——アステリアへと手を伸ばそうとする。
ところが、そこでもテレサは手を止めることになった。アステリアの方は手を握られるものだと準備をしていたのに、だ。なぜテレサが思いとどまったのかは不明だが、この時の彼女は、まるで血の涙でも流さんかぎりに、苦悶の表情を浮かべていたようである。
妾だって悩むことくらいあるのじゃ!




