14.5-22 学生生活22
『皆様。授業中の所、失礼いたします!変質者を捕まえましたー!』かさかさかさ
「 」ちーん
「うん?またこの人?もしかして、私たちの教室を覗き込んでたの?」
「おっと、幻影魔法が緩んでおったみたいなのじゃ。これは失礼」
「たしかこの方は、ミレニア様と言いましたっけ?」
「目を付けられたのかしら?面倒くさいわね……」
「えへ、えへへ……」ゆらゆら
ポテンティアが部屋の中を覗き込もうとしていたミレニアに気付いて、話しかけようとしたところ、ミレニアは勝手に転倒。後頭部を強打して意識を失った彼女の事を、ポテンティアは怪我がないことを確認した後で、教室の中へと運び込んだ。その際、カサカサと大量の黒い虫たちがミレニアの事を運んできたためか、ハイスピアの精神は崩壊し、彼女は再びセーフモード(?)に入ってしまったようだ。
しかし、ハイスピアがセーフモードに突入するのは今に始まった事ではなかったためか、気にする者は誰もいなかったようである。皆、ハイスピアのことを無視して、対応を協議を始めた。
『とりあえず、人体実験の被験者として、カタリナ様に売り渡s——提供しましょう』
「ちょっ、それ、洒落にならないわよ。カタリナに渡して戻ってきたら、腕と足が2本ずつ増えていました、なんてことになったらいやよ?私……。ここはハイスピア先生に任せるしかないでしょ」
「……えっ?」
「あっ、ハイスピア先生が元に戻った」
「セーフモードに入っておっても、一応、最低限の反応は出来るのじゃろう」
「……せーふもーど?」
「とにかく、ハイスピア先生?お願いしますね?」
ワルツは、ハイスピアに対応を迫った。このまま自分たちが意識の無いミレニアに構うと、碌なことにならない気しかしなかったからだ。そんなワルツの言葉には、こんな副音声が隠されていたと言って良いだろう。……正体をばらされたくなければ、協力しろ、と。
「ひゃっ……ひゃい……」
ハイスピアがシュンとする。今の彼女は人に化けているので、表情以外に大きな変化は見られなかったが、もしも彼女が元のエルフに戻っていたなら、耳をぺたりと倒していたに違いない。……まぁ、エルフの耳が動くのかは不明だが。
◇
そんなこんなで放課後になった。午後の授業の開始時刻が遅れたこと。そして乱入者(?)の登場により、授業は早々にお開きになったのだ。
だが、それでも授業の進捗に問題はなかった。すでにクラスの授業の進み具合は、初等科どころか中等部すら大きく越えて、その上の高等専攻科でもやらないような高度な講義になっていたからだ。しかもその講義内容に皆が付いてきているのだから、文句の付けようがなかったと言えよう。なお、誰が講師をして、どんな方法で授業をしていたのかは、ミッドエデンの国家機密に関わるので省略する。
しかし、書籍を書き写すという行為には、学院で習う勉強とはまた異なる意味が含まれていたので、たとえ授業でやらない範囲だったとしても、4人とも写本を日課として続ける事にしたようである。ゆえに、彼女たちは図書館に来ていたわけだが——、
「伽藍ドゥね……」
「……うん?」
「だーれもいない、というワルツ語じゃろ?」
「本当に誰もいませんね……」
——図書館に来ても、先日に引き続き、誰もいなかったようである。理由は単純。せっかく引きこもりの呪い(?)から立ち直った学生たちは皆、ルシアの魔力の濁流に精神を押し流されて、再び寮の自室に押し込まれてしまったからだ。まさに伽藍堂。図書館には、人っ子一人、誰もいなかった。先日よりも人口密度が下がったと言えよう。
「……まぁいいわ。さっさと教科書を写しちゃうわよ?えっと……明日の授業は……言語学と経済学、か……。経済は、まぁ、ともかくとして、言語学って言ったら、国語みたいなものかしらね?」
「国語?なにそれ?」
「国の言葉を習うのよ。例えば、昔に使われていた古語とかよ?……風の前の塵に同じ、いとおかし、とか。まぁ、この世界だとどこでも同じ言葉を使っているから、歴史があるのか分かんないけどね」
「そっかぁ……よく分かんないや!」
ルシアは考えるのをやめた。多分、姉は、適当な事を言っているのだろう、と瞬時に感じ取ったのである。伊達に妹をしているわけではないらしい。
それから4人は、昨日と同じく、それぞれの方法を使って教科書の検索を行った。ルシアは誘導ミサイルのような光魔法を使い、アステリアは身体強化魔法で獣のごとく走り回り……。やはり十数秒ほどで目的の書物を見つける事に成功する。
その様子を見ていたワルツとテレサがそれぞれ一言。
「便利ねぇ……」
「そうじゃのう……」
頭の中が機械で出来ているはずの2人だったが、彼女たちには、もはや本を探す気は無かったようである。




