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14.5-20 学生生活20

「最初の授業は——」


 午後のハイスピアは、午前中の彼女とは異なり、授業を放棄するようなことはしなかった。薬学が好きで教授の座にまで上り詰めた彼女にとって、生徒であるワルツに授業を丸投げするというのは、流石に気が引けたようである。


 彼女が真面目に始めた授業で最初に触れたのは、薬学の中でも基本中の基本と言えるマナについての講義だった。一般的な回復薬などにも、ベースの溶液にマナが使われているらしい。


「マナというのは、言ってしまえばただの水です」


「(でしょうね……)」


 ワルツは今まで何度も見てきたマナの成分を思い出す。H2O。彼女が機動装甲を持っていた頃に分析したマナからは、水との違いは何も検出来なかった。


 ゆえに、ただの水、というハイスピアの発言に、ワルツは納得していて、他のルシアやテレサも特に異論は無い、と言わんばかりの表情を見せていた。


 しかし、ただ一人、アステリアだけは、納得出来なさそうに眉を顰めていたようだ。どうやら彼女は、マナがただの水だとは思えなかったらしい。


 一方、ハイスピアは、そんな生徒たちの反応を見て、なぜか嬉しそうな表情を見せていたようである。一般的な学生は、マナをただの水だと説明すると、いまのアステリアのような反応を見せるので、マナについて知識を持っていそうなワルツたちの反応には、好感触を抱けたのだ。


 とはいえ、一人、普通の学生らしい反応を見せていたので、ハイスピアはマナについての説明を続けた。


「マナと水の違いは、魔力が水に溶けているか、溶けていないかの違いだけです」


 ハイスピアのその発言に、顰められていたアステリアの眉が若干元に戻る。しかし、完全には戻らない。


 アステリアのその反応を見ていたハイスピアは、彼女にも好感を持ったようである。大半の生徒たちは、魔力が水に溶けていると説明した時点で、そこで思考を停止し、そういうものかと納得してしまうからだ。水に溶けた魔力とは何なのか……。気体なのか、固体なのか、そもそも物質ですらないのか……。薬学科において伸びる学生というのは、そういった疑問に気づける者たちなのだから、教える側のハイスピアとしては、嬉しくて堪らなかったに違いない。


 だからこそ、というべきか……。ハイスピアからアステリアに向かって質問が飛ぶ。


「では、アステリアさん。水に溶ける魔力とは何なのだと思いますか?」


 ハイスピアのその問いかけは、自分が学生だった頃に問いかけられた質問だ。魔力が何者であるのか、薬学的な答えは存在しないが、学生が魔力とどう向き合っているのかを確認するという意味において、大切な事だった。化学に置き換えて考えるなら、周期表が発見されていない時代に、水とは何なのかを問いかけているようなものである。その問いかけをするだけで、学生のポテンシャルを覗えたのだ。


 アステリアは、いったいどんな返答をしてくるのか……。ハイスピアが嬉しそうに返答を待っていると、アステリアは眉間の皺をさらに深くしながら、スッと目を瞑って、そして何かを考え込みながらその口を開いた。


「時空の歪みです」


「……へっ?」


 アステリアから予想だにしていなかった返答が飛んできた結果、ハイスピアは目を点にして固まる。しかし、アステリアはハイスピアの反応に気付いていないらしく、つい最近、とある人物から習ったばかりの知識を踏まえ、自分なりの考えを口にした。


「魔力とは、魔法を顕現させるための燃料のようなものです。しかし、それが真だとするなら、生物の身体の内側に蓄えられるエネルギーとしては、あまりに大きすぎます。人によっては、山すら吹き飛ばすエネルギーを身体に内包していることになりますので、場合によっては、風邪を引いただけで、制御不能に陥り、爆発してしまうはずです。しかし、そういった事例の報告は聞いたことがありません。そうなると、化学的なエネルギーとして体内に保有しているのではなく、何か別の形……それも、空間を歪めてしまうほどの圧倒的なエネルギーを何かしらの形で体内に納めているということになります。そんな事が出来るのは、()()()に考えれば2つだけ。相対性理論に基づいた質量-エネルギー変換か、時空そのものの歪みを利用した時空バネも言うべきものからエネルギーを取り出しているとしか思えません。その内、前者は、核分裂を行わせたり、対消滅を行わせたりしたさいに、人体にとっては非常に危険な放射性のエネルギーを発生させるので現実的とは思えませんが、後者は、時空の歪みに干渉する方法があるなら、エネルギーを取り出すことも可能だと考えられます。転移魔法や空間魔法、あるいは今は失われてしまった重力魔法などは、直接的に空間に作用する魔法の例なので、それらを詳しく研究すれば、時空の歪みと魔力についてももっと詳しく分かるのではないかと考えています。話は少々脱線しましたが、水に溶けている魔力が何者なのか、時空バネという考え方を使って説明しますと、水分子が、質量を作り出すヒックス場とはまた異なる次元で物質に質量のような特性を与え、エネルギーを蓄積する……それがマナに含まれる魔力の正体だと考えています」


「…………」


 マシンガンのようにアステリアの口から放たれた言葉を前に、ハイスピアの頭はフリーズした。彼女が何を言っているのか、全体の1割も理解出来なかったのである。言葉の弾丸を受けて、精神をボロボロにされてしまった状態とも言えるかも知れない。


 なお、その際、他の3人が——、


「ワルツ……お主、また、アステリア殿に余計な知識をねじ込んだのかの?」

「いやいや、私じゃないわよ。マナが何者とか知らないし、魔法理論とか分かんないし……」

「この感じ……コルちゃんかなぁ……」


——などと口にしていたようだが……。やはりハイスピアには何一つ理解出来なかったようである。

一応、真面目に理論を書いておるのじゃ?

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