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14.5-19 学生生活19

 午後、ワルツたちが自習を行って、周期表のアルカリ土類の物性について学んでいると、1時間遅れでハイスピアが教室へと戻ってきた。


   ガラガラガラ!


「遅れてすみません!今から授業を再開します!」


 どうやら、魔力の濁流事件は一応収束したらしい。


 結局、どうなったのか……。心配していたルシアが、ハイスピアに対して問いかけた。


「先生……皆はどうなったんですか?」


 ルシアの問いかけに対し、ハイスピアは一瞬肩を落とすものの、表情を改めてこう答える。


「えぇ、心配しなくでも大丈夫です。気分の悪い学生が相当数いますが、今は皆さん意識を取り戻して、寮の自室に戻って休んでいます」


「そっかぁ……。よかったぁ……」


「ただ、原因がハッキリしていないのが難点です。いったい、どこで生じた魔力だったのか……」


「そ、そうですよね……」


 ルシアはそう言って閉口した。俯いて、膝の上に載せた両手を、ギュッと硬く握り締める。やはり責任を感じているらしい。


 そんなルシアの姿が、ハイスピアの目には怯えているように見えていたようである。……魔力の濁流がいつ飛んでくるとも分からないのだから、怯えて当然。教師たちには魔力濁流の現任を突き止めなければならない責任がある……。


 そんなことを考えたハイスピアは、ルシアを励ますようにこう言った。


「大丈夫。大丈夫です!ルシアちゃん。安心してください。私たちが原因を突き止めますから!」


 対するルシアは、元気づけられれば元気づけられるほど、心が抉られるような気持ちになっていたらしく、ずんずんとテンションが下がっていく。原因は自分にあって、それを隠しているのだ。心が痛まないわけが無かった。


「……はい」しゅん


 頭の獣耳をピタッと倒して俯くルシアのことをハイスピアの視点から見ると、彼女は原因が突き止められていない教師たちに幻滅しているように見えていた。ハイスピアが元気づけているのに、尚更にしょんぼりとしたのだ。期待しているように見えないのは明らかだった。


 とはいえ、ハイスピアには、それ以上、何も言うことが出来なかった。教師たちが原因を突き止められていないのは事実だからだ。


「(必ず……必ず原因を突き止めて見せます!待っていてください、ルシアちゃん!)」


 ハイスピアの目に決意の炎が灯る。


 一方、事情のすべてを知っているワルツたちは、2人のやり取りを聞いている最中、ルシアとはまた異なる反応を見せていたようである。むしろ、話を聞いていなかったと言った方が良いかも知れない。


「(皆の記憶を消せるということは、学院内で実験をしても、ある程度ごまかせる、ってことよね……。いや……やっぱり、自宅で実験した方が良いのかしら?いや、でも、自宅にいる時間はそれほど長くないわけだし、不在の時に実験器具を悪戯されても嫌だし……)」

「(ワルツが何を考えておるのか何となく分かるのじゃ……。とりあえずここは、ハイスピア殿の記憶をした方が良いのかの?)」

「(何と言いますか……学生って大変なんですね……。今まで知らなかったです)」


 といったように、各々にまったく異なることを考えていて、ルシアの魔力が今回の事件の原因だとバレるかも知れないなどとは、誰も考えていなかったのである。まさにフリーダム。むしろ、何があってもルシアのことなのだから、バレてもどうにでも出来ると思っていた節すらあったようだ。


 そんな中で——、


「では、改めて。これから授業を始めたいと思います」


——いよいよ午後の授業が始まる。午前中は基礎的な教科の授業がメインだったが、午後は専門的な授業——つまり薬学の授業が開かれることになる。

エイプリルフール、か……。もうだめかも知れぬ……。

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