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14.5-18 学生生活18

 午後、授業が始まるはずの時間になっても、ハイスピアは教室に姿を見せなかった。理由は明白。学院内の混乱が未だ収まっていなかったからだ。


   バタバタバタッ……


「……なんか、廊下が慌ただしいわね」

「やっぱり私が悪いんだね……」どんより

「…………」

「(テ、テレサ様?何か言ってあげた方が……)」


 いったいどれだけの学生たちが学院の中で倒れてしまったのか……。その場にいた全員が最悪の結果を頭に浮かべた。


 そんな中、殆ど喋らなかった人物がいる。テレサだ。


 彼女は人知れず責任を感じていたのである。確かにルシアは魔力の発生源かもしれないが、テレサが幻影魔法を解かなければ、今回のような大事故には至らなかったからだ。


「……テレサ?」


 何か考え込んだように難しい表情を浮かべるテレサに気付いたワルツが問いかける。するとテレサは、より一層険しい表情を浮かべながら、その重い口をゆっくりと開いた。


「……今のところ、妾たちがやったという証拠は無いのじゃ。今のうちに言っておくのじゃが、ここにいる4人ともが共犯じゃからの?」


「「「えっ」」」


「妾たちがやったのだと皆にバレてしまえば、もはや退学は免れぬと思うのじゃ。ならば、妾たちがとるべき選択肢は、証拠隠滅のみ。この事態を無かったことにするほかないじゃろう」


 テレサは至極真面目な表情でそう語る。そんな彼女の言葉通り、ルシアが魔力を放出しているのだとバレれば、彼女は退学間違い無しなので、必然的に一行全員が退学せざるを得なくなるはずだった。


 ゆえに、秘密を貫くべき……。テレサはそう決めたようだが、それに反発したのはルシアである。


「で、でもそれって悪いことだよね?」


 テレサの発言は、喩えるなら、通り魔的に不特定多数の者たちを闇討ちして、そのまま何事も無かったかのように黙っているようなものなのである。


 良心は痛まないのか……。ルシアは戸惑いの色を含んだ視線をテレサに向けるが、テレサは迷うこと無く断言する。


「はて?妾には悪いことだとは思えぬが?」


「えっ……皆のことを魔力で攻撃しちゃったのに?」


「漏れるものは仕方ないじゃろ。それともア嬢は、お漏らししたゆえ許して欲しいと言って回るのかの?それと同時に、これからもお漏らしすると公言しながらの」


 ルシアが学院内にいる以上、再び同じ事が起きないとは言えなかった。あるいは、幻影魔法を使うテレサの身に何かがあっても、同じ事が起きるのは間違い無いのである。


 テレサはオブラートに包むこと無く直接的に指摘したわけだが、それを聞いていたルシアは、当然のごとく頬を膨らませた。テレサの言い方も悪かったので、憤りを感じてしまったらしい。


 おそらくは間もなく反論の言葉が飛んでくるだろう……。そんな予想を立てたテレサは、ルシアが口を開くよりも先に、再度、話し始めた。


「二度と起こさぬと確約出来ぬゆえ、事あるごとに隠蔽するほか無かろう。幸い、妾たちには力があるのじゃ。埋め合わせくらいは出来るじゃろ?」


「「「埋め合わせ?」」」


 テレサ以外の3人の声が重なる。


「ようは、プラスマイナスゼロにすれば良いのじゃ。皆が知らぬところで学生たちを傷付けてしまう代わりに、皆が知らぬところで学生たちを助ければ、埋め合わせになると思うのじゃ?まぁ、ポテが周辺地域を警戒して、冒険者たちを足止めしておる時点で十分に埋め合わせは出来ておると言えなくないのじゃがの」


 学院にいる大公ジョセフィーヌを狙って学院を襲撃しようとしている冒険者たちのことを、ポテンティアは人知れず撃退しているのである。そのおかげで学生たちは、命を落とすかも知れない争いを避けられているのだから、ルシアの魔力を受けて昏倒する程度の事くらい目を瞑って然るべき……。それがテレサの論法だった。


「まぁ、もちろん、ポテはただの例ゆえ、ア嬢が罪の意識を感じるのなら、別途罪滅ぼしをすれば良いと思うのじゃ。ゴミ拾いをするとか、大規模回復魔法を定期的に学院全体に掛けるとか……。まぁ、学生たちの記憶を消すくらいなら、妾も協力するのじゃ」


「…………」


 テレサの言いたいことをようやく理解したルシアの表情に、先ほどまで見せていた迷いの色は消えていた。むしろ笑みすら浮かんでいたようである。


 ただし——、


「……ってことは、毎日好き放題やれるってことね!」


「「「……えっ?」」」


——何かを思い付いた様子のワルツの発言を聞くまでは、の話だが。


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