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14.5-16 学生生活16

 昼休み。久しぶりに登校してきた生徒たちは、これまた久しぶりに会った学友たちと顔を合わせて、嬉しそうに、楽しそうに、雑談を交わしていた。教室にいる人数はそれほど多くはない。半数以上の生徒たちが食堂に行って食事を摂っているからだ。


 ゆえに、この教室——具体的には初等部2年魔法科の教室に残っている学生たちは、皆、弁当持参の者たちばかりだった。久々の登校ということもあり、皆、適当な弁当ではなく、それなりに気合いの入った弁当を用意して、お互いの弁当の評価をしてみたり、あるいは許可無く突いてみたり……。現代世界にもありそうなやり取りが、笑みと共に交わされていたようだ。


 とはいえ、生徒たちの半分以上の話題は、なぜ自分たちが病に罹って、そしてなぜ急に治ったのかという疑問だった。何かきっかけがあったのは確かなのだが、記憶が曖昧で、思い出そうにも頭に霧が掛かったように思考がぼやけ、どうしても答えにはたどり着けず……。そのせいか、生徒たちの間では、呪いや陰謀といったオカルト的な話題に発展していたようだ。その辺も、学生らしいやり取りだと言えるだろう。


 いずれにしても、皆、普段の日常を取り戻し、喜びに包まれていたわけだが、幸せや日常というものは、ある日、何の前触れも無く、突如としてその手からこぼれ落ちていくものなのである。永遠に続く平穏など存在しないのだ。……まぁ、生徒たちにとっては、あまりに短すぎる平穏と言えなくなかったが。


   ズドォォォォン!!


 突如として、部屋の中が異様な"気配"に包まれる。息をするのもやっとな濃密な何かの中で、生徒たちの視界はぐにゃりと歪みに歪んだ。まるで酷い船酔いのような……。あるいは何か巨大な生物に飲み込まれたかのような……。前後不覚な状況に放り込まれた生徒たちは、為す術が無いままに、その胃袋の中身を盛大にぶちまけた。


 喋ることすら儘らない。助けを呼ぶことさえ不可能。中には意識さえ手放してしまう者まで現れるほどで、楽しかったはずの昼の時間は、一瞬にして地獄と化した。今頃、食堂などは、言葉で表すのも躊躇われるような壮絶な状況になっていることだろう。


 ただ、幸いにして、そのすべてを圧倒するような"気配"は、すぐに収まったようである。"気配"が嘘のように消え去った後、生徒たちの間で、ようやくうめき声と悲鳴が同時に上がった。


 教室に戻ってきていたミレニアも、"気配"による被害を受けた1人だった。ただ、彼女の場合は、食事を摂っていなかったために、被害は軽微。彼女はクラス委員らしく、すぐさま皆のフォローに回る。


「み、みんな!まずは深呼吸よ!深呼吸をして落ち着きましょう!」


 混乱状態にあっても、まずは深呼吸をすべき……。危機的状況の中でいち早く我を取り戻す方法を、彼女は声を大にして呼びかけた。


 そのおかげか、間もなくして、教室の中に落ち着きが戻ってくる。今頃、他の教室でも似たようなやり取りがされているに違いない。


 ミレニアは、個別に生徒たちの対応をしながら、一体、何が起こったのかを彼女なりに推測した。


「(さっきのあれは何?魔力……?いえ、そんなレベルじゃなかったわ)」


 ミレニアには、自分の感覚が信じられなかった。いくら強大な魔力とは言え、全身の感覚器官を乱されるほどの魔力など、前代未聞どころか、伝承ですら聞いた事がないレベルだったからだ。最早、魔力とすら思えないほど。むしろ、そういった特殊な幻影魔法に囚われていたと考えた方が、腑に落ちるほどだった。……いま、この状態こそが、幻影魔法によって誤魔化された状態にあるなど、彼女は微塵も考えてはいない。


「(いずれにしても、先生方の判断を仰いだ方が良さそうね……)」


 ミレニアは一旦思考を止めた。このまま思考を続けても、正しい答えにたどり着けるとは思えなかったのだ。


 それから間もなくして、彼女の担任の教師が現れ……。彼女たちは教師の指導の下、事態の収拾に駆け回ることになった。


  ◇


 一方、教師であるハイスピアは、というと——、


   ズドォォォォン!!


「?!」びくぅ


——と自分の研究室で、元のエルフの姿に戻ってしまうほど、その強大な魔力を前に驚いていたようである。とはいえ、幸いと言うべきか、彼女が嘔吐したり、泣き出したりすることは無かった。一応、これでも教師であり、薬学課の教授だからだ。


「これは魔力?!なんて濃厚な……」


 思わず椅子から立ち上がった彼女は、エルフの間にだけ伝わる古い伝承を思い出したようだ。……かつて空に2つの月が浮かんでいた頃、月の1つが無くなって、それと同時に魔力の雨が空から降り注いだ、という伝承だ。


「まさか……ね」


 惑星全体に空から降り注ぐほどの強力な魔力の発生源があれば、同じような魔力の気配を感じられるのではないか……。ハイスピアがそんな事を考えていると、周囲を包み込んでいた魔力は嘘のように消えていったのである。


 その後で彼女もまた、自分の生徒たちの所へと急いで戻ることになる。……強大な魔力に襲われた彼女たちが、混乱状態に陥っているのではないかと心から心配しながら。


つまり、全部、ア嬢が原因なのじゃ。

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