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14.5-13 学生生活13

 午前の授業が終わり、昼休みの時間になる。学院の食堂には、昨日の比では無いくらいに多くの生徒たちがいて、普段の活気を取り戻していた様子だった。


 その様子を廊下の窓から眺めながら、ルシアは眉をハの字にしつつ、口を開く。


「ちょっとあの中でご飯を食べるのは、勇気がいるかなぁ……」


 繰り返しになるが、レストフェン大公国において、獣人は嫌われている存在なのである。生徒たちも例外ではない。そんな状況の中、人がごった返す食堂の中で獣人であるルシアたちが食事をする事になれば、どんな事になるのか……。あえて頭を使って想像するまでもなく、何かしらの問題が生じるのは明らかだった。


 ゆえに、一行は、最初から食堂で昼食を摂ることを諦めて、弁当を作ってきていたようだ。弁当であれば、誰にも妨害されること無く、教室で食べることが出来るからだ。


「昼は教室で食べると言っておらんかったかの?」


「うん……。でも、皆で食べた方が楽しいのかなぁ、とも思うんだよね」


「ふむ……。まぁ、ア嬢の気持ちは分からなくはないのじゃが、近いうちにこの教室が使えなくなるはずじゃろ?そのときは、妾たちも食堂で食べねばならなくなるはずなのじゃ。別にいま急いで食堂で食べずとも良いのではなかろうか?」


 ルシアたちが専用の教室を割り当てられている理由は、他の学生たちと入学のタイミングが異なっていたために、一般教科の授業について行けないと予想されたので、ハイスピアが駆け足の授業を行って、早く他の学生たちの学習レベルについて行けるようにするためだった。他の生徒たちに授業のレベルが追いついた時点で、ルシアたちも他の生徒たちのクラスに組み込まれる、というわけだ。


 そうなれば、この教室は、ルシアたちのためだけの教室ではなくなり、彼女たちは他の生徒たちもいる教室で授業を受けなければならないのである。当然、静かに身内だけで食事を食べることは困難。普通の学生たちに紛れて食事を摂らなければならないのである。


 普段はどちらかというと社交的なルシアだったものの、今回ばかりは少し不安を感じていたようである。想像するのと現実とでは、やはり大きな違いを感じていたらしい。


 まぁ、彼女の不安は微々たるもので——


「もう、自分たちの専用の食堂でも作っちゃいましょうか」


——姉のワルツの方は、いつも通りに後ろ向き。全力で(?)食堂に行くのを嫌がっていたようだ。なお、今のワルツには、獣耳も尻尾も生えていないので、人種を理由に差別されることはない。


「んー……まぁ、いっかぁ。無理に混じるのもどうかと思うし……」


「それに、お主。食堂で出るあの料理を食べたいのかの?」


「……デザートは悪くなかった。デザートは」


「主食は?」


「…………お姉ちゃんの言うとおり、新しい食堂を作った方が良いかも知れない」


 ルシアが食堂で出た虫料理のことを思い出して、皆と一緒に食堂で食事を食べるという考えを見直しているその横では——、


「…………」げっそり


——ゲッソリ狐が2人増えていた。アステリアだ。彼女の場合、全身毛むくじゃらで、レストフェン大公国において差別されている獣人そのもので、ルシアやテレサのように、遠巻きに見れば普通の人族に見えるということもなく……。もしも他の生徒たちと混じって行動するような事があれば、ルシアたちよりも悪い立場に立たされる可能性が高かった。


 昨日までなら、学生たちの多くが寮に引き籠もっていたので、学院内の人口密度はそれほど高くなく、アステリアが恐怖を感じることも無かった。だが、今日は打って変わって生徒が大勢いる状態なのである。多くの人だかりをチラッと見たアステリアの中では、言い知れぬ恐怖がわき上がってきていたらしく……。廊下から食堂を眺めていた彼女は、顔を青く染め上げていた。


 まぁ、それも——、


「やっぱり、他の学生たちにもうしばらく引き籠もってもらっていたほうが良かったかしら?せめて私たちが卒業するまで……」


——生徒たちの事を眺めながら、過激な発言をするワルツに比べればまだマシと言える状態だったようだが。


「お姉ちゃん、なんでそんなに皆のことを怖がってるの?」

「学院に来たいと言い出したのはワルツではなかったかの?」

「気持ちはすごく分かりますけど、マスターが気にされることは無いと思うのですが……」


 問いかけられたワルツは、首を振って肩を竦めると、短くこう口にした。


「私ね……怖いのよ。犠牲者が出るのが……」


「「「?」」」


 ルシアたちは不思議そうに首を傾げた。ワルツは何に怯えているのか、犠牲者とは何なのか……。3人とも理解出来なかったのだ。そんな妹たちの反応を見たワルツが、思わず頭を抱えてしまった理由も、ルシアたちはきっと理解出来ていなかったに違いない。


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