14.5-12 学生生活12
午前中で3つの授業が終わる。歴史、算数、言語(いわゆる国語)の3教科だ。どの教科も初等学科の3年間を掛けて学ぶ内容だったが、ワルツの作った強制学習帳の効果により、たったの半日で、すべてが皆の頭の中に入った——いや、刻み込まれたのだ。
そして昼まであと少しと言った頃。
「……はい、時間よ?」
ワルツのその言葉で、紙と睨めっこをしていたルシアたちが顔を上げる。筆記試験だ。これ以上、3教科で学ぶことが無いので、試しにワルツ監修の筆記試験をすることになったのである。
そんな試験の席にはハイスピアも並んでいて、教師でいることを半ば放棄していたようである。むしろ、放棄したのは教師でいることではなく、常識、あるいは人間性とも言えるかも知れないが。
「んー、まぁ、こんなもんかなぁ?」
「じ、自分が恐ろしいです……!」わなわな
「あははは〜」ゆらゆら
「……妾だけ自力の学習って、酷くないかの?」げっそり
皆、概ね、テストの内容は良好だったらしい。一部に、とても幸せそうな人物と、とても不幸せそうな人物がいたようだが、そんな2人も一応は、テストの中身をすべて埋められたようである。
「どれどれ……なるほど……へぇ……アステリアは満点よ?」
「「えっ」」
「えへへへ〜」ゆらゆら
「えっと……すみません。"まんてん"、ってなんですか?初めて聞く言葉なのですが……」
「テストの内容が全部合ってるってこと。100点満点。このメンバーの中では貴女だけよ?」
「!!」ぶわっ
アステリアは目を丸くして尻尾をパンパンに膨らませた。たとえ静電気まみれになっても、ここまで膨らむことは無い、と言えるほどに、だ。ワルツの"満点"という言葉には、そんな魔法の力が含まれていたらしい。
アステリアに対して賞賛の言葉を贈った後。ワルツは続けて他の者たちの点数も口にする。
「ルシアは96点で、テレサは85点ね」
「惜しかったなぁ……まぁ、テレサちゃんより上だからいっか!」
「……ア嬢と違って、妾には、強制学習が効かぬのじゃが?」
テレサは恨みがましい視線をルシアに向けるが、対するルシアの方はどこ吹く風といった様子で取り合わない。いつものことだ。
そして最後。
「ハイスピア先生は98点でした。あと少しだったのですけどね……」
「そうですかー、あははは〜」ゆらゆら
「……もう、ダメね。先生ったら、また壊れているわ?」
ハイスピアは強制学習帳を前にしても精神が壊れるようなことは無くなっていた。それでもまた壊れてしまったのは、ワルツの授業のペースがあまりに早いにもかかわらず、極短時間で3教科を満遍なく学べてしまったせいだった。たとえ、強制学習帳が"普通"であると記憶を書き換えても、"普通の学習量"に対する認識まで書き換えることは出来ず……。ワルツの授業によって、普通や常識といったものを容赦無く蹂躙されてしまったハイスピアは、精神保護モード(?)に入ってしまったのである。
「仕方ないわね……。流石にこれは放置でしょ」
ワルツは匙を投げた。これ以上、ハイスピアの記憶を書き換えれば、彼女が彼女で無くなってしまう懸念があったのだ。
「まぁ、1日放っておいて、明日もこんな感じだったら、何か手を打ちましょ」
ルシアたちがハイスピアに対して遠い視線を向けている姿を眺めながら、ワルツは思考を停止して、そう結論づけた。
こうしてハイスピアは、ワルツたちの間で、モルモットとしての地位を確立していったのである(?)。




