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14.5-06 学生生活6

「……どうする?なんか、ハイスピア先生の様子が変なんだけど……」ちらっ

「どうしたんだろ……急に……」ちらっ

「多分、エルフだとバレたことを気にされているんだと思いますよ?」ちらっ

「いやいや、まさかそんな事はないじゃろ」ちらっ


   じぃ……


「そ、そのまさかなのですが……」がくがく


 もしも自分の正体が他の者たちバレれるようなことがあれば人生の一大事……。ハイスピアは、4人の生徒たちから向けられていた視線に身震いした。彼女たちの視線が、まるで自分の事を値踏みするかのようで、言い知れぬ恐怖を感じていたようである。


 対するワルツたちは、ハイスピアが何者であろうともあまり気にしていなかったためか、話の内容はハイスピアではなく、ワルツが手にしていた手鏡へと向けられる事になった。


「それはそうと、この鏡って魔道具なのかしら?」


 そう言いながら鏡を覗き込むも、ワルツの身体に変化は無い。現在進行形で変身している者にしか影響はないらしい。


 それからワルツは、何を思ったのか、鏡をテレサへと向けた。


「……何で妾に向けるのじゃ?」


「いや、コルテックスが化けてないかな、って思って」


「妾に化けるメリットが無いし、そもそもコルなら化けずに口調を変えるだけで妾になりすませるじゃろ……。鏡程度ではどうにもならぬのじゃ」


「まぁ、そりゃそうか……」


 ワルツはそう口にすると、鏡をルシア——の方には向けず、アステリアの方へと鏡を向けた。明確な記憶は無いが、アステリアが変身魔法を使ってるような、そんな気がしたらしい。


 しかし——、


「ちょっ……何をするんですか?!」ぶぅん


——アステリアは鏡に映るギリギリの所で回避する。まさに獣のごとき動きだ。


「えっ……何で避けるの?鏡に映ったら疚しいことでも——」


「魂を抜かれたらどうするつもりですか!」


「「「えっ……」」」


 アステリアは何を言っているのか……。ワルツたちは顔を見合わせた。


「正体がバレるんじゃなくて、魂が抜かれるの?」


 鏡を向けられると正体がバレるかも知れないという話をしていたはずなのに、何故アステリアは、魂が抜かれるという話をし始めたのか……。ワルツが問いかけると、アステリアは幽霊話でもするかのように、暗い表情を見せながら事情を語った。


「……これは私のお婆ちゃんの話です。私のお婆ちゃんはとってもお金持ちだったらしいのですが、ある日、とある商人の方から反感を買って、魔法の鏡を向けられてしまいました。それからお婆ちゃんは2ヶ月ほど眠り込んで……」


「……死んじゃった、と?」


「そうです。それからというもの私たちの家では、人に鏡を向けられてはならないと言い伝えられています。それがたとえどんな鏡であったとしても……」


「ふーん……。だったら、鏡を拾わなかった方が良かったんじゃない?」


「だって……高く売れそうだったんですもん……」しゅん


「あぁ、なるほど……」


 ある程度工業化の進んだミッドエデンでは、鏡はそれほど高くないが、一般的な国では、鏡はとても高価なものなのである。そう考えれば、アステリアが道ばたに落ちていた鏡を思わず拾ったのも無理は無いことだと言えるだろう。


「じゃぁ、返すけど、悪用しないようにね?」


「もちろんです!」


 アステリアはワルツから鏡を受け取ると、どこからともなく取り出した布の中に大切に仕舞い込んでから、それを亜空間へと収納した。彼女にとっては色々な意味で、重要な逸品だったに違いない。


「それで……」


 ここまでハイスピアのことを完全に放置していたワルツたちの会話が、ようやく本題へと戻ってくる。その結果、ハイスピアは、ビクッ、と肩をふるわせるのだが……。しかし、ワルツから飛んできた話の内容は、ハイスピアが予想していたものとは、少し異なっていたようである。


「先生。壁に空いた穴のことですが、私たちのせいにしないで、ご自分で塞いでください」

 

 飽くまでワルツは、ハイスピアがエルフだったことには触れないつもりらしい。


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