14.5-05 学生生活5
「……はっ?!きょ、教室に穴が?!なぜっ……」
「「「「……は?」」」」
「だ、誰です?!教室の壁に穴を開けたのは!」
「「「「…………」」」」
どう返答すべきか——いや、どう反応すべきか……。ワルツたちは無表情のまま、どう切り替えして良いものかと悩んだ。担任のハイスピアが自分で壁を壊しておいて、まさかそれを誰かのせいにするとは思わなかったからだ。それも生徒のせいに。
そんな中、ワルツが何かを思い付いたらしく口を開く。
「誰か鏡持ってない?鏡。まぁ、持ってるわけn——」
「ありますよ?」ひょいっ
アステリアが異空間から手鏡を取り出す。
「なんで持ってるの?いやまぁ、色々、毛並みが気になるのかも知れないけれど……」
「いえいえ、そうではなくて、今朝、学院に来るまでの道程で、良さげな鏡が偶然落ちていたので、その際に拾ったものです」
「あぁ……(冒険者が落とした手鏡ね……)」
ワルツたちは、登校の際、長い陸橋の上で事切れた(?)冒険者がまるでRPGで戦闘不能になったがごとく所持品をその場にばらまくかのようにして気絶していた場面に出会していた。その際、飛び散った所持品の中に鏡があって、アステリアはそれを拾ってきたのだろう。まぁ、本当に道ばたに落ちていた可能性も否定はできないが。
アステリアから差し出された手鏡を受け取ったワルツは、その妙な重さを感じて首を傾げつつも、鏡の鏡面部分をハイスピアの方へと鏡を向けて、そしてこう口にした。
「先生。この鏡の中に犯人がいます」
その瞬間だった。
ボフンッ!
ハイスピアが煙に包まれる。
あまりに突然の事で、鏡を向けていたワルツも、その光景を見ていたルシアたちも、皆が眼をパチパチとしながら固まっているほどだった。端から見れば、ワルツが魔道具のようなものを使って、ハイスピアを攻撃したように見えたに違いない。
そして、煙が晴れた後、ハイスピアがいた場所から出てきたのは、一応、煙が生じる前とほぼ同じハイスピアだった。ただし、その耳は横に長く伸び、そして尖っていたようだが。
「「「「え……」」」」
皆の声が重なる。
「「「「エルフ……」」」」
まさかハイスピアがエルフに変身してしまう——いや、彼女の正体がエルフだとは誰も予想していなかったのだ。どうやらアステリアが拾った鏡は、某RPGなどに良くあるような正体を露わにする魔道具の鏡だったらしい。
4人がハイスピアのことを見て"エルフ"と口にした結果——、
「…………」
——場の空気は更に硬くなった。もしも空気の硬さを調べる装置があったなら、ダイアモンドですら足下にも及ばないほどにメーターを振り切っていたに違いない。
空気が固まってからどれほどの時間が経ったか……。皆の感覚が麻痺して、早く誰か喋らないかと視線だけで会話を促し始めた頃。教室の壁に空いていた穴から風が吹き込んできたことをきっかけとして、再び教室の中の時間が流れ始める。
「だ……」
「「「「……だ?」」」」
「だ、誰にもいわないでください!何でもしますから!」
ハイスピアは懇願した。両膝を床について、両手を祈るように組んだ状態で、だ。獣人だけでなく、エルフたち亜人種も人権が存在しなかったレストフェン大公国において、もしも正体がエルフだとバレるようなことがあれば、ハイスピアは教員でいられないどころか、奴隷以下の扱いに落ちてしまうのだ。懇願するのは自然な事だと言えた。
そんなハイスピアを前にして、ワルツたちの困惑が尚更に深まってしまったことは、敢えていうまでも無いだろう。




