6前-04 シリウスからの言伝4
「お初にお目にかかります。ボクは、ボレアス帝国皇帝シリウス様に遣わされたユキと申します」
小会議室に通されたユキが、コルテックスを前に名乗った。
どうやら魔王シリウスというのは通称の呼び名で、魔族領域では皇帝をしているらしい。
「こんばんわ〜、ユキさん。私はコルテックスといいます。ミッドエデンの議長(代理)ですね〜」
もしも余計に『代理』と言ったなら、ユキはシリウスについて話してくれないかもしれないので、口の形だけで表現するコルテックス。
なお、議長本人は、
『ぬ〜・・・頭痛が痛いのじゃ〜・・・』
普段使わない頭をいきなり酷使したためか、知恵熱(?)で寝込んでいた・・・。
なお、付き合っていた水竜も、
『んあ〜・・・魔王様が旅に出て・・・・・・zzz』
夢の中まで絵本の物語が出てくるほどに、絵本漬けになっていたりする・・・。
まぁ、それはさておき。
本来、テレサの代役を務めているはずのコルテックスが、何故、妾口調(?)ではなく、普段の喋り方をしているのか。
それには幾つか理由があるのだが、その中でも最たる理由は、
「・・・あのー、なんでここに皆さんが?」
・・・何故か、エネルギアで地下大工房へと戻って別の作業をしているはずの面々が揃っていたから、である。
「いやね・・・。剣士じゃないけど、いやーな予感がしたのよ」
「おや、お姉さまもですか?」
「私はこの部屋の前を通りがかったら、みんなが部屋の中に入っていったから、付いてきただけどな」
「俺も姉さんに付いて来ただけだ」
「私は勇者の代理だ」
この場には他にもメンバーがいたが、皆、大体同じ理由で集っていた。
つまり、『悪い予感がした』か『皆が集まっていたから付いて来た』のどちらかである。
そして、逆に、正規の議員がいなかった(但し、狩人は除く)。
それには歴とした理由があるのだが・・・、まぁ、一言で説明するなら、国民(議員?)感情に配慮した、と言えば分かるだろうか。
ミッドエデンが存在するこの地方一帯に住む人々と、北方に存在するという魔族領域に住む人々の仲は、度々、大規模な戦争を繰り広げるほどに、険悪なのである。
そんな中で魔族が訪問して来たとなれば、小さくはない波風が立つことは想像に難くは無いだろう。
故に、そういった柵に囚われていないワルツとコルテックスたちは、まず自分たちが話を聞いて、ワンクッション置いてから、ミッドエデンのネイティブ議員(?)に話を通そう、そう考えたのである。
・・・まぁ、本来なら、コルテックスとアトラスだけで話を聞くつもりだったのだが・・・。
「まぁ、そういうわけよ」
「はあ・・・」
結局、どういうわけなのか理解できない様子のユキ。
「ユキ様〜?ここにいる人たちは、みんなミッドエデン政府の重鎮みたいなものなので、気にしないでください」
「ちょっ・・・コルテックス!私は」
「分かってますよ〜?いち市民なんですよね〜。えぇ、分かってますとも〜」
ワルツが言い終わる前に、セリフを棒読みするかのような口調で話すコルテックス。
「・・・分かってるなら良いのよ」
だが、ワルツにとってはそれで満足だったらしい。
どうやら、彼女にとっては、実際の役回りよりも、肩書が重要なようである。
そんな理解に苦しむ思考回路を稼働させている姉を放置して、コルテックスは話を先に進めた。
「それで、ユキ様〜?この度は、一体どういったご用件でこの国へいらしたのでしょうか〜?」
ユキに、話の続きを促すコルテックス。
するとユキは、懐に手を入れて、一通の封書を取り出す。
「・・・こちらに、シリウス様が認め下さった書翰がございます。どうぞご確認ください」
そして彼女は、封蝋が施された封書をコルテックスへと手渡した。
「・・・声に出して読んでもよろしいでしょうか〜?」
中から5枚の手紙を取り出しながら、ユキに朗読の許可をとるコルテックス。
「はい。それについては構いません」
「わかりました〜。それでは・・・」
そしてコルテックスは普段の柔和な表情のまま、朗読を始める・・・。
のだが、その前に、
「挨拶の部分は省略しますね〜」
と彼女は前置きをする。
『えっ・・・』
「・・・あったほうがよろしいですか〜?」
「いや、別にいいわよ。どうせ、よくあるパターンなんでしょ?ネットに上がってる挨拶文のコピペみたいに」
「ん〜・・・一般の方々と比べると少々毛色は異なるようですが、恐らくこれが魔族の間での挨拶のパターンなのでしょうね〜」
手紙を斜め読みしながら、感想を述べるコルテックス。
「そう言われるとなんか気になるけど・・・まぁ、後で見せてもらえばいいだけだから、今はいいわよ」
そんなワルツの言葉に、先程まで疑問の表情を浮かべていた仲間たちも頷いているところを見ると、反論はないようである。
・・・というよりも、早く中身を教えてほしい、といった様子であった
「分かりました〜。では、読みますね〜?」
そしてコルテックスはいきなり5枚目の手紙を読み始めた。
どうやら、前4枚の手紙がすべて挨拶のようである。
「前略・・・国民が飢えて死にそうだから、金よこせ!」
『・・・えっ?!』
口調と声質を変えて手紙を読み始めたコルテックスに、自分の耳を疑うか、驚きの表情を向ける一同。
・・・その中で、誰よりも驚いたのは、手紙を持ってきた本人であるユキ、その人だった。
「いや、そんなこと書いてませんよね?!」
そんな彼女の問いかけに、コルテックスは冷静に言葉を返す。
「はい。確かに書いてませんよ〜?ですが、書いてある文と政治的な解釈とを統合すると、つまりそういうことになりますよね〜?ここにいる人たちは、皆が正確に政治的解釈が出来るとは限りませんので、私の方で少々翻訳をさせていただきました〜」
「・・・」
コルテックスの言葉に唖然とするユキ。
どうやら見た目によらずハイスペックなコルテックスに舌を巻いているようである(?)。
・・・そういう意味では、テレサはポンコツ・・・いや、なんでもない。
「では、続きを読みますね?」
最早、読むという言葉で方付けていいのか疑問が残るところだが、コルテックスはその言葉通り、まるで手紙を朗読するかのように話し始めた。
・・・但し、見た目上は。
「お前の国だろ?!余の領地に『古代の魔法爆弾』を落としたのは!」
『・・・は?』
「おかげで畑はダメになるし、酪農業も壊滅したわ!」
『・・・』
「どうしてくれる!まぁ、そんな話はどうでもいいから、とりあえず食料か金よこせ!」
『えっ、どうでもいいの?!』
「以下略・・・ふぅ、こんなところでしょうかね〜」
『はあ・・・』
納得がいかない様子の仲間たちとは対照的に、すっきりした表情で、コルテックスは終わりを告げた。
「あのう・・・本当にここは、ミッドエデンの王城なのですよね?国の政府がある場所なんですよね?」
コルテックスの無茶苦茶な翻訳(?)を耳にし、戸惑うユキ。
「えぇ。紛れも無く、王城よ?まぁ、今は王がいないから『議事堂』って言えるかもしれないけど」
「・・・王がいない国というのは、これが普通なんでしょうか・・・」
そしてユキは、ミッドエデン政府に対して、疑問を持つことを諦めた・・・。
「・・・それにしても・・・『古代の魔法爆弾』って何かしらねぇ?」
「先代の王たちが何かしていたのでは?」
ワルツの疑問にテンポが答える。
「だとすれば、今更先代の話を持ちだされても、私たちとしては困るわよね・・・。全く情報がないし、多分、テレサだって知らないはずよね・・・」
3ヶ月前を境に、王城の人員は一変してしまったのである。
一応、書類という形で、以前のミッドエデンの執政に関する情報は残っていたが、全てではなかった。
中には、秘密裏に実行されていただろう軍事作戦などもあるはずで、もしかしたら、その一つに、魔法爆弾(?)を用いたボレアス帝国への攻撃のミッションがあったのかもしれない。
ワルツ達がコルテックスの翻訳した手紙の内容に頭を傾げていると、
「あのー、先代、というのはどういうことなのですか?」
事情を知らないユキが尋ねてきた。
「・・・そうね・・・話せば長い話になるんだけど・・・簡単に言うと、3ヶ月前に革命が起ったのよ。それで、王様がいなくなって、政府の人員が全員置き換わっちゃったわけなのよ」
「そうでしたか・・・」
先王は余程ひどい悪政を敷いていたのだろう、と思うユキ。
そして彼女は、何かを思い出したように悲しげな表情を浮かべると、続けざまに言った。
「・・・ボク達の国であの惨事が起ったのも、丁度3ヶ月前でした・・・」
そう言いながら、うつむくユキ。
すると『いち市民』であるはずのワルツが、間髪入れずに口を開く。
「・・・そう・・・もう一度、昔の情報を洗って何が起ったのか調べてみるわね」
「・・・あの・・・えっと・・・はい。お願いします」
ユキはそのことに気づいていながら、何も言わなかったのであった・・・。
「食料と経済的支援については、これから話し合うから、今日のところはこちらで用意した部屋で寛いでくれるかしら?もちろん準備は出来てるんでしょ?アトラス?」
「おう!当たり前じゃん!」
「そう。なら、狩人さん?彼女のことを、来賓室まで送ってもらえるかしら?」
「あぁ。任された。・・・さぁ、ユキさん。こちらへ・・・」
「はい。では、本件、熟慮頂きますよう、よろしくお願い致します」
そう言うとユキは、狩人に連れられて来賓室へと行ってしまった。
「さてと、ちょっとこれからホムンクルスだけで会議があるから、全員ここで解散して貰えるかしら?」
そうワルツが口にすると、
「いきなり宣戦布告があるかと思ったけど、そうじゃなくてよかったな」
「いや、まだ分からんぞ?これからミッドエデンがどう動くかで色々と話しが変わっていきそうだと思うが?」
「さてと、後輩ちゃん?しーくれっとさーびすのお仕事をするわよ?」
「夜のお仕事ですね?分かります」
「一体、何をする気ですか・・・」
そんな会話をしながら、仲間たちは部屋を出て行ったのであった・・・。
・・・ただ一人を除いて。
2時間かかって、魔王シリウスの治める国の名を考えた挙句、何の捻りもない名前になってしまったのじゃ。
いったい妾の時間はどこへ言ってしまったのじゃろうか・・・。
まぁ、次々回に出てくる首都の名前は秀逸じゃと思うがのう。




