14.5-03 学生生活3
「ちょっと分かんないわねー」
裸になった大量の冒険者たちが校門前に転がっている様子を眺めながら、ワルツは首を横に振った。彼女の返答は嘘ではない。恐らくポテンティアがやったのだろうという推測はあっても、その瞬間を見ていたわけでもなければ、報告を受けたわけでもないからだ。……ポテンティアに指示は出したが。
だが、ジョセフィーヌは確信を持っていたようである。以前、ほぼ同じ場所で、公都からやってきた兵士たちが、冒険者と同じように素っ裸にされて転移させられた出来事を知っていたからだ。
その当時、誰が兵士たちに対応したのか知っていたジョセフィーヌは、ルシアへ向かって視線を向けたようである。また今回もルシアが対応したのではないかと考えたのだ。
ただ、今回ばかりは彼女が犯人というわけではなかったので、ジョセフィーヌの視線の意味を察したルシアは、姉と同じように首を振って自身の関与を否定した。
「えっと、私じゃないよ?私がやるなら、転移魔法で証拠を隠滅するからね。だって、後処理、面倒くさいもん」
と言いながら、ルシアは冒険者たちに手を向けると——、
ブゥン……
——と彼らの事を転移魔法で消し去ってしまう。それも彼らの身体だけ。
「「「えっ」」」
「学院で冒険者の人たちを捕まえておくのは難しいと思うから、公都に送り返しておいてあげたよ?誰が身ぐるみを剥いだのかは知らないけど、やるなら最後までちゃんとやらないとね?」
と言って、スタスタとその場を去って行くルシア。そんなルシアの姿を、ジョセフィーヌの近衛騎士たちは顔を青ざめさせながら見送り、近くにいた教員たちもまるで猛獣を前にした小動物のごとくピタリと固まっていたようだが、ルシアにそのことを気にした様子はなく……。その場には言い知れないカオスな空気だけが残されたのである。
なお、言うまでも無いことかも知れないが、ワルツはそういった空気が苦手なので、彼女は他の2人と一緒にルシアの後を付いてったようだ。
◇
ドサッ……
「お姉ちゃんが予想したとおり、冒険者の人たち、来てたみたいだね?」
自身の教室までやってきたルシアは、疲れたように机に鞄を置くと、溜息交じりに口を開く。彼女の口から零れたのは、やはり冒険者たちの事で、その問いかけは、部屋の片隅でカサカサと動いていた昆虫へと向けられていた。
すると——、
『いえ、違います』
——どこからかそんな声が聞こえてくる。ポテンティアの声だ。
「何が違うの?ポテちゃんがやったんじゃないの?」
『いえ、そのことではなく、ルシアちゃんがいま話しかけているのは、僕ではなく、ただの虫だという点についてです』
カサカサカサ……
「っ?!」きゅぃぃぃぃん
「「ちょ、まっ!!」」
ワルツとテレサは慌てて立ち上がると、ルシアを羽交い締めにして、彼女が魔法を放とうとするのを必死になって止めようとする。下手をすれば——いや、下手をしなくても、講義棟どころか学院ごと吹き飛ぶような気しかしなかったらしい。その際、アステリアは、おどおどするばかりで、何も出来ない様子だった。彼女としても、ルシアが魔法を使えば、世界が滅びるような予感があったのだろう。
「2人とも止めないで!あれは滅ぼさなきゃダメなやつだから!」
「いや、滅ぼすのに学校まで滅ぼす必要はないじゃろ!」
「そうそう!もっとスマートに行きましょ!スマートに!たかだか虫一匹のために校舎を建て替えるとか面倒でしょ?」
「…………」むすぅっ
2人に宥められたルシアは、難しそうな表情を見せて思いとどまったようだ。まぁ、彼女以外の者たちからすれば、ルシアが落ち着いても、心は休まらなかったようだが。
そうこうしているうちに——、
ガラガラガラ……
——担任教師のハイスピアがやってきた。ただし彼女の表情は普段のものとは違い——、
「えへへ……みんな、おはよ」ぐらぐら
——彼女が混乱した際に陥るニコニコモードだったようだが。




