14.5-02 学生生活2
流石にこの日の朝に、ルシアが料理を作るという展開にはならなかった。主食ならまだしも、クッキーや稲荷寿司といった料理には、相応の材料が必要になるが、食料庫の中にその手の材料はまったく無かったからだ。ゆえに、一行は、放課後に時間があれば、食材の買い出しに出かけることになっている。
皆で朝食を食べて、地下空間を出て、そして村の人々に朝の挨拶をした後。ワルツたちは村から学校へと繋がる長い陸橋を歩いていた。高い位置に立つ学院へと繋がっているので緩やかな上り坂ではあるが、村から学院までは距離があるため、実感的にはほぼ平坦な道である。
陸橋には、ワルツたち以外の村人たちや、学院関係者たちも歩いていたようである。つい先日、突然出来たばかりの陸橋を前に、皆、戸惑いと警戒心が拭えなかったのだが、ワルツたちが陸橋を利用している様子を見ている内に、その警戒心も薄れてしまったのだろう。
そんな陸橋の上では、この日、事件が起こっていた。
「 」ちーん
陸橋に人が転がっていたのだ。それも素っ裸で。
「ひぃっ……変態さんがいます!」
「いやいや、確かに装備を脱いでその辺に投げ捨てているように見えるけど、あれ多分、無理矢理に身ぐるみを剥がされた感じのやつよ?(ポテンティアに……)」
脱ぎ散らかされた装備を見る限り、彼は冒険者のようだった。一応生きてはいるようだが、意識は無く、ワルツたちや村人たちが近くを通っても起きない状態だ。どうやら夜の内にポテンティアに相当虐められたらしい。
「ど、どうされますか?この変態さん……」
種族が異なるので一々反応する必要は無いはずだが、アステリアは恥ずかしそうに顔を手で隠しながら、冒険者のことを指の間からチラ見する。
対するワルツは、はぁ、と深い溜息を吐いた。
「放置よ。放置。どうせお金ほしさにジョセフィーヌの命を狙いに来た冒険者なんでしょ?救う価値なんて微塵も無いわ?」ちらっ
ワルツがそう言って陸橋の欄干の方へと目を向けると、そこでは複数の黒い虫たちが、コクコクと頷くように何度も頭を上下させていた。無視形態のポテンティア群だ。そんな彼は、ワルツに言葉で応えるような事はせず、少し離れた場所からワルツたちのことを見ているだけだった。アステリアが自身の正体を隠しているのと同じく、ポテンティアも自分の存在を前面に押し出すような事をするつもりはないのだろう。
そんなポテンティアには気付かず、アステリアがワルツへと心配そうに問いかける。
「放っておいても大丈夫でしょうか?」
「自業自得だからね。それに彼は多分、まだマシな方だと思うし……」
「えっ」
「まぁ、学院に行けば分かるわよ。きっと」
思わせぶりな返答を口にするワルツには、何となくカオスな予感がしていたようだ。
◇
「…………」ぽかーん
学院の正門前に辿り着いたアステリアは、そこに広がる光景を目の当たりにして、口を開けたまま固まった。なにしろそこには——、
「「「 」」」ちーん
——無数の冒険者たちの物言わぬ姿があったからだ。皆、ジョセフィーヌの命を狙ってやってきた者たちらしい。50人ほどはいるだろう。
「どういう依頼の出し方をしたら、こんなにたくさんの冒険者が来るのかしら?もしかしてランクとか関係無い感じの依頼?」
「ランクに関係無く色々な者たちがやって来るとすれば、余程、報酬が高いのじゃろのう」
「強制的に送り込まれてきたのかもしれないよ?」
その場にいた冒険者たちは、例外なく身ぐるみを剥がされたスッポンポン状態。そんな彼らの姿を見たワルツたちは、特に驚くでもなく、可哀想なものを見るかのような視線を冒険者たちに向けていたようである。
それから4人が、酔っ払いよろしく裸で寝転ぶ冒険者たちの合間を縫って学院の中へと入ると、そこでは——、
「おはようございます。皆様。もしや、正門のところで冒険者たちが寝そべっているのは……マスターワルツが関係しているのでしょうか?いえ、関係していますよね?」
——すっかりと元気になった様子のジョセフィーヌが、ワルツたちの事を迎えたようである。それも、これ以上無いくらいに困惑した表情で。
眠いのじゃ……zzz。




