14.5-01 学生生活1
「うぅ……昨日、何があったのかよく思い出せぬ……。コルとカタリナ殿がいたような、黒い狐と戯れたような……えへへ……」
テレサが目を覚ますと、彼女の姿は食卓——ではなく、寝室のベッドの上にあった。普段通りに身体を起こした彼女は、昨日、何があったのかを思い出そうとするが、上手く思い出せず……。カタリナたちに会ったような気がする、という曖昧な記憶しか思い出せなかったようだ。
それから身支度を調えて、彼女が居間へと向かうと、そこには既にワルツとルシア、それにアステリアの3人が目を覚まして起きていた。そんな3人は食卓に座りながら——、
「「「…………」」」ずーん
——そういうわけか頭を抱えていたようである。彼女たちも昨日のことが思い出せないらしい。
その様子を見て、テレサが問いかける。
「おはようなのじゃ。さては皆も、昨日のことが思いだせぬとな?」
すると、ワルツが首を振って、机の上を指差した。するとそこには死んだ虫のように腹を上にして寝転がるポテンティアと、彼を錘にして置かれた手紙の姿が……。
「うん?死んだ虫……じゃなくて、ポテ公か。こやつ、いつの間に来た……うっ……頭が……っ!」
何か思い出せそうな気がするも、その"何か"を思い出そうとすると頭に激痛が走ったので、テレサはすぐに思考を止めて、手紙を手に取った。そして中身に眼を向けて、眉を顰める。
「カタリナ殿……やはり、来ておったのじゃな……」
テレサが手にした手紙には、短い文面でこう書いてあった。
《ルシアちゃんへ もうすこし料理のお勉強をした方が良いと思います カタリナ》
と。
まったくもって同感だとテレサが内心で何度も頷いていると、ワルツが俯いていた顔を上げる。
「なんか、皆が寝ている内にカタリナが来ていたみたいなのよ……。記憶がまったく無いのよね……。私、寝ないはずなんだけど、どういうわけか記憶が吹き飛んでるし……気付いたら朝になってるし……」
ルシアも口を開くが、彼女の場合は俯いたままだ。
「私……カタリナお姉ちゃんを怒らせるようなお料理作ったのかなぁ……。全然、記憶に無いんだけど……」しゅん
アステリアも口を開く。
「朝起きて、何となく腕に違和感があると思ったら、そこだけ毛が剃られていて、絆創膏が付いていたんです……。一体誰がこんなことを……」
そんな3人の発言を聞いていたテレサは、思考するのをやめた。不毛すぎる真実が隠されているような気がしたからだ。
「なんというか……皆、災難に襲われたみたいじゃな……。まぁ、妾もよく覚えておらぬが、昨日、カタリナ殿が来たのは間違いないのじゃろう」
テレサは適当な事を言って、話を無理矢理切り上げることに決める。
それから彼女はキッチンに立って、朝食の準備を始めた。すると、彼女隣にアステリアが立って、朝食作りに参加する。何と言うことはない、いつも通りの朝だ。
ただ、この日は少し、普段と違うことがあった。
「わ、私も何か作る!」
カタリナの手紙に触発されたのか、ルシアもキッチンに立とうとしたのだ。
その発言に、テレサは眉を顰めた。アステリアもあたふたとしていたようである。ワルツに至っては遠い視線を天井のシミに対して向けている状態だ。ポテンティアは——まぁ、彼のことは置いておこう。
「……ア嬢。朝食と昼食と夕食については妾たちが作るゆえ、料理の練習をしたいのであれば、それ以外のものを作るべきなのじゃ」
「えっ?朝も昼も夜もダメとか、いつ作れば良いのさ?」
「そうじゃのう……あぁ、そうなのじゃ。例えば、ジョセフィーヌ殿たちに差し入れを作るというのはどうじゃろう?あのミレニアという学生にも渡せば良いと思うのじゃ。まずは、大量に作る事が出来る——」
「じゃぁ、やっぱりお寿司かなぁ……」
「——稲荷寿司でもクッキーでも何でも良いゆえ、意見はより多くの者たちから得るべきだと思うのじゃ」
「……分かった。でも、自身が無くて心配だから、みんなに渡す前に、テレサちゃんに味見してもらうね?」
「ちょっ……えっ……(それを避けたくて、皆の名前を出したのじゃがのう……)」げっそり
結局は、こうなるのか……。間もなくして、テレサの目から生気が消えた。
それでも食べる妾は偉いと思うのじゃ。




