14.4-38 学生デビュー38
2人が村に辿り着いて、アステリアが人の姿に変身し、予備の服を身につけた頃——、
「……妾たちよりカタリナ殿とアステリア殿の方が早く帰ってきておるというのはこれ如何に?」
『闇夜に紛れて空を飛んで帰ってきた僕らより早いというのは、流石にドン引きですよねー』
——2人の後ろから、先に自宅に帰ったはずのテレサとポテンティア(Gスタイル)が現れた。2人の会話の内容から推測するに、ポテンティアが空中戦艦の姿に戻ってテレサを乗せ、空を飛んで帰ってきたようだが、それよりも早かったカタリナたちを前に、2人とも引いているようである。
そんなテレサたちの姿を見たアステリアは、丁度良いタイミングだと思ったのか、2人に向かって頭を下げた。
「お二人にお願いがあります!私から切り出すまで、私の正体をマスターワルツとルシア様には明かさないでいただきたいのです!」
アステリアが必死な様子で懇願する。しかし、テレサとポテンティアの方から帰ってきた言葉は、アステリアの予想とは大きく異なっていたようだ。
「はて?何の事かの?」
『ちょっと何を仰っているのか分かりませんね?』
「えっ」
「妾は、カタリナ殿に蹂躙されそうになっておった可哀想な狐の気配を感じたゆえ、本能に流されるままに森に入っただけなのじゃ。かなり暗かったゆえ、狐しか見えておらぬ!」キリッ
『僕も似たようなもので、ワルツ様に森の警戒を任されて巡回している中、偶然、カタリナ様に虐められている狐さんを見つけただけです。見つけた狐さんは、ワルツ様に言われたような冒険者ではありませんでしたから、報告する必要性は感じられません』
といったように、2人とも知らぬ存ぜぬの態度を突き通すというのだ。アステリアの懇願に同意するでもなく、反対するでもない、"知らない"という態度を見せていた2人を前に、アステリアは——、
「……ありがとう……ございます」ぶわっ
——思わず涙を零してしまったようである。
尤も——、
「……二人とも?別に私は狐を虐めようなどとは考えていなかったのですが?」じとぉ
——狐を虐めていると2人に指摘されたカタリナは非常に不機嫌になり、そのせいで——、
「…………」ブルッ
『…………』カサッ
——テレサとポテンティアは、怯える小動物ように萎縮してしまい……。認識が云々、アステリアの懇願が云々以前に、彼女たちが今回の出来事を誰かに口外する可能性はほぼゼロになってしまったようだが。
◇
こうして何の問題も無く(?)、4人は村の地下空間へと戻ってきた。……そのはずだったのだが、事件はどうやら家の外、ではなく、家の中で起こっていたようだ。
「 」ちーん
「 」ちーん
「 」ちーん
家の中で、ワルツとルシア、それにコルテックスが、物言わぬ屍と化していたのである(?)。彼女たちだけではない。地下空間にいた騎士と獣人たちの全員が、白目を剥いて倒れ、一見して死んでいるように見えたのである。
そんな人々に共通して言える事は、皆、食事中だったことだ。そして、地面に倒れていたワルツの指は、機能を停止する間際、地面にこんな血文字を残していたようである。
《ルシア》
と。
恐らくは、アステリアが帰ってきたときに、温かい食事を食べられるようにとルシアが気を遣って食事を作ったのだろう。その際、料理の味に自身が無かった彼女は、獣人たちや騎士たち、そして自身の姉に試食を頼み、そして自らも味見をして——、
「 」ちーん
——と皆で昏倒してしまったに違いない。
テレサはその場にいなかったことを安堵した。ポテンティアも同じだ。カタリナですら、顔を引き攣らせているレベルである。最近事情を知ったアステリアも大混乱状態だ。
そして皆が思った。自分たちは巻き込まれずに済んで良かった、と。
テレサたちは内心で安堵するものの、自宅の食卓の上にある物体に気付いて、4人共が表情を一変させる。なにしろそこには、自身の名前が書いた札と、温かな食事が置かれていたからだ。
その後、4人は意を決して、食事を口にした。幸い、食事の味は、酷いと言えるものではなかったようである。当然だ。なにしろ、記憶自体が飛んでしまい、食事をしたこと自体、覚えていないからだ。……それと同時に、アステリアの正体についての記憶も。
そして、彼女たちが次に眼を覚ますと、次の日の朝が訪れていた。
料理をすればするほど、ア嬢のレベルが上がっていくのじゃ。
……何のレベルかは敢えて伏せるが……。




