14.4-34 学生デビュー34
カタリナが、ワルツとルシアとの再会を喜ぶ抱擁を終えた後……。
「……さて、テレサ様」
「は、はひぃっ!」
「まさかとは思いますが、ワルツ様を独り占めするために、私たちに連絡をよこさなかった訳では……ありませんよね?」にごぉ
「ち、違います!違うのじゃ!」
「では、何がどう違うのか、私が納得するように説明して貰いましょう」ドンッ
絶体絶命と言えるほど、テレサは追い詰められていた。蛇に睨まれた蛙より酷い状況だ。絶対権力者から向けられる無慈悲な怒りが、テレサのガラスのハートを容赦無く叩き割ろうとする。
カタリナにとってワルツは、とても大切な存在だ。そんな彼女の事をテレサが独占したとなれば、それは"協定違反"であり、制裁の対象として処理しても誰も文句は言えないはずだった。ワルツたちと連絡を取れることをカタリナを含めた他の者たちに隠していたコルテックスは、協定違反による"制裁"受けてしまったらしい。
そんなコルテックスと共通の身体を持つテレサとしては、気が気でなかった。コルテックスが碌な抵抗も出来ずにボロボロになっているのは、カタリナがそれだけの戦力を持っているという証明なのである。機能制限されているがためにコルテックスの劣化版でしかなかったテレサにとっては、為す術など無いのだ。風前の灯火と言っても良いだろう。
ゆえにテレサに出来る事は命乞い——という名の謝罪だけ。実際、ワルツを巡る協定(?)を違反しているつもりの無かった彼女は、平謝りに徹した。
「ワ、ワルツには指一本触れておらぬし、盗撮などもしておらぬのじゃ!もちろん、入浴シーンを覗いたりとか、着替えのシーンを覗いたりとかもしておらぬ!冤罪なのじゃ!信じて欲しいのじゃ!……いや、まさか……妾が盗撮しておらぬ事を怒っておるのかの?!」
「ちょっと、何言ってるのよ?テレサ……」
テレサが突然意味不明な事を喋り出したせいか、ワルツはテレサに向かってジト目を向けるものの……。テレサはテレサで命の危険を感じていたためか、誤魔化す様子はない。むしろ、ワルツも分かっているものだと思いながら、弁明を続ける。
「……証拠を出せと言われると、残念ながら出せぬのじゃ。強いて言えば、ワルツに直接聞いて欲しいとしか言えぬ。……別にあったのじゃ。連絡を取れぬ事情が。じゃが……妾の口からはその事情が何であるかは言えぬ。そのせいで制裁を受けるというのであれば、甘んじて受けるのじゃ」
テレサはそう言って酷く険しい表情を浮かべながら、罪を認めた犯罪者のごとく俯いた。これ以上、口に出来る言い訳は無く、なるようにしかならないと腹をくくったのだ。
そんな彼女の言葉を静かに聞いていたカタリナは、はぁ、と溜息を吐くと、身体から放っていた殺気を止めた。
「……ワルツさんやルシアちゃんと逃避行していたことに、一言では言い切れない理由があるということは何となく分かっています。ですから、協定違反についてとやかく問いかけるような事はしません。ですが言うべき事があるのでは?」
「……ワルツの学生服姿が思った通り可愛i——」
「…………」ゴゴゴゴゴ……
「……も、申し訳なかったのじゃ。もう連絡無しに消えるようなことはしないのじゃ……」げっそり
「よろしい」
そう言ってカタリナが視線を逸らした瞬間、テレサはその場にへたり込んだ。そして大きな溜息を吐いて、現状を噛みしめる。……生きているって、素晴らしい、と。なお、彼女は一度死んでいるので、厳密に言えば生きてはいない。
一方、カタリナが向けた視線の先には、とある人物の姿があった。彼女にとって知らない人物。両手を胸の前で握り締めながらプルプルと震えているアステリアだ。そんなアステリアは、コルテックスのことを物言わぬガラクタにしてしまったカタリナを前に酷く怯えているらしく、カタリナが視線を向けると、小さな悲鳴を上げながら、眼を瞑って身を竦ませる。
カタリナとしては、見ず知らずの人物を怖がらせるつもりは無かったようだが、どういうわけか彼女はアステリアの姿に見入っていたようだ。いわゆるガン見である。恐らくは、その容姿に眼を奪われたのだろう。ミッドエデンでは、全身に毛が生えている獣人は住んでいないからだ。
「中々に興味深い……」
「ひっ?!」
「あなたは?」
カタリナが誰何すると、アステリアは震える声で名乗る。
「ア、ア、アステリア……です……」
「アステリアさん。すこし、身体を詳しく見せて欲しいのですが——」
「ひやぁっ?!」
アステリアは溜まらず駆け出した。まさに一目散だ。しかし、家の入り口には異空間が広がっていて、表には出られない状況。ゆえに彼女は窓から飛び出した。
そんなアステリアの背中を見送りながら、ワルツが一言。
「カタリナ……」はぁ
そしてワルツは頭を抱えたのであった。
実験☆動物!




