14.4-33 学生デビュー33
地下大空間の自宅へと戻ってきたワルツたちの話題は、引き続き、ジョセフィーヌたちをどうやって守るかという話題が中心だった。しかし、自宅に着いた時点で、ワルツの方針は決まっていたようである。
「もうね……アレしか無いと思うのよ。こうして悩んでいる間にも、刻一刻と時間は流れていくわけだし」
「えっ……アレって何?」
「あぁ、アレじゃな!アレじゃろ?アレ」
「(この反応……分かってないですね)」
「テレサ?無線機貸して」
「うむ。それは良いが……コル辺りなら無線機など無くとも、呼びかければ来るのではないか?どうもここ数日のコルは、出てくるタイミングを見計らっておる気があるのじゃ。きっとこの瞬間も、あやつは妾たちの会話を聞いておるに違いないのじゃ」
「いや、別にコルテックスを呼ぼうとしてるわけじゃないんだけど……」
と、ワルツが口にすると——、
ガチャッ……
——と自宅の扉が開く。その向こう側は真っ暗闇の暗黒世界。転移用魔道具"どこにでもドア"による亜空間が広がっていた。
その様子を見たワルツとテレサは、またコルテックスが聞き耳を立てていたのだろうと推測して、揃って肩を落とすのだが……。暗闇の向こう側に一瞬だけ見えたコルテックスの白い手が、物理現象を無視して一気に引き戻されていくかのように消えた様子を見た後は、2人とも眉を顰めることになる。
そして数秒後には——、
「ね、ね、ねぇ、テレサ?私、何か、すっごく嫌な予感、っていうか悪寒がするんだけど……」
「き、き、奇遇じゃのう?殺意?いや……ねっとりとしたこの感覚は何なのじゃ……」
——2人とも揃って顔を青くする。
ただ、ルシアとアステリアの2人は大きな反応を見せていなかった。むしろ、ワルツたちが何を怖れているのか分からない様子で、首を傾げていたほどだ。
だが、ワルツたちが感じた直感は、間違いではなかったらしい。亜空間の向こう側から何かがやって来る気配があったのだ。
コツッ……
その場に硬い靴底で歩いたような音が響き渡る。
ニュッ……
扉の向こう側の空間が、まるで液体のようにドロドロになって漏れ出してきたかのように、扉から触手がにゅっと何本か現れた。
コツッ、コツッ、コツッ……
触手まみれの亜空間の向こう側から、何か白い服を着た人物が歩いてくる。赤い髪と赤い尻尾を持ち、粘菌で出来た自己修復可能な白衣を纏う人物。そして何より、コルテックスを押さえつけられるだけの実力を持った魔王のごとき存在……。
「ひ、ひ、ひさし、久しぶりね?カ、カタリナ……」
「っ?!」ガクガクガク
「…………」じとぉ
"どこにでもドア"の向こう側から現れたのはカタリナだった。そんな彼女の手にはボロ雑巾のようになったコルテックス頭が握られていて、ズルズルと引きずられていたようだが、誰もコルテックスの方には目を向けようとしなかったようだ。彼女を見たら——いや、彼女に気付いたら、自分の人生が終わるような気がしたらしい。
そんなコルテックスのことを、カタリナは突然その場に打ち捨てた。片手で、ブンッ、と一投げだ。コルテックスがきりもみ状態になりながら、壁に打ち付けられる。
それからカタリナは急に走り出すと、一目散に——、
ギュッ!!
——ワルツに抱きついた。そして、ワルツの事を愛おしそうに抱きしめながら、こう言ったのである。
「こんなお姿になってしまって……でも無事で良かった!」
そう口にするカタリナに毒気無く、ただ純粋にワルツの事を心配しているようだった。それゆえか、抱きしめられていた側のワルツには何も言えず……。ただ、カタリナに抱きしめられるままにジッとするしかなかったようだ。
そんな彼女に、ルシアが俯きながら近付いていく。カタリナがなぜここに来たのか、おおよその見当が付いていたらしい。
「……ごめんなさい。私がお姉ちゃんたちのことを——」
ルシアとしては、カタリナに怒られるものだと思っていた。ゆえに、彼女は、ワルツたちを庇おうとしたのだ。……自分の勝手で皆を束縛した。悪いのは自分だ、と。
しかし、ルシアがすべてを言い終わる前に、カタリナは彼女にも手を伸ばして——、
ギュゥッ!
「ルシアちゃんも元気そうで良かったです。本当に……」
——ワルツと同じく大切そうに抱きしめたのである。そんなカタリナの反応に最初は戸惑うルシアだったものの、言い訳を口にする理由を失ってしまったのか……。彼女もまたカタリナの抱擁に身を委ねることにしたのであった。
妾とコル、絶体☆絶命!




