14.4-31 学生デビュー31
突然だが、学院長のマグネア=カインベルクは、実年齢と見た目の年齢が一致していないことを、実はものすごく気にしていたりする。彼女は子ども扱いされるのが嫌で、装飾品や服装などに気を配り、大人の女性を演出していたのだ。
靴もそうだ。いつも不安定なハイヒールを履いて、少しでも自身の背が高くなるよう文字通り背伸びをしていたのである。
それゆえに——、
「こ、これは何事ですか?!」
——と大講義室へと慌てた様子でやってきたマグネアは、そこに出来ていた血だまりや、意識の無いジョセフィーヌや孫娘のミレニア、それに他の騎士たちの姿を見て混乱に拍車が掛かった際に——、
グキッ……
「ふぐっ?!」
——大講義室の階段でバランスを崩し——、
ガンッ!
「んがっ?!」
——運悪く階段の角に頭をぶつけてしまう。
「が、学院長?!」
ワルツが慌てて駆け寄るも——、
「 」死ーん
——マグネアに意識は無い。それどころか、ピクピクと痙攣しながら額から出血し、その場に血だまりを作り始めているという状態だ。それも、うつ伏せで。
「し、死んでる……」
「いや、まだ死んでおらぬのじゃ。ア嬢?もう一人、重傷者が増えたのじゃ」
「えー……今の自業自得だよね?仕方ないなぁ……」
と言いつつ、マグネアに回復魔法を叩き付けるルシア。するとマグネアの額の傷は綺麗に消え、ただ眠っているかのような見た目へと変わった。恐らく、目に見えない脳震盪やそれに類する症状も回復していることだろう。
「はい、お終い」
「お疲れさま。でも……」
ワルツはそう言ってから腕を組んで考え込む。理由は単純。
「ジョセフィーヌたちのことをマグネアに頼もうと思ってたのに、マグネア自身が昏倒するとか、もうスケジュールが大崩壊なんだけど……」
多数の意識不明者という面倒ごとをマグネアにすべて押しつけようとしていたら、その当の本人が意識不明者の仲間入りを果たしたので、色々とお手上げ状態になってしまったのである。
ワルツたちが頼れるのは、あとは担任教員のハイスピアくらいのものだった。しかし、彼女は今どこにいるのか分からないのである。彼女を頼ろうにも頼れなかった。
かと言って、いつ起きるかも分からないジョセフィーヌたちの事を待っていると、彼女たちが起きるまで家に帰れなくなるのは想像に難くなく……。ワルツは思わず天を仰いでしまう。
「なんでこんなに厄介ごとばっかり飛び込んでくるのかしら?やっぱ、日頃の行いが悪いのかしらねぇ……」
ワルツは深く溜息を吐きながら、自身の日頃の行いを思い返していた。なお、その結果は、とても善良なものばかり(?)で、運が悪くなりそうな内容は何一つなかったようである(?)。
そんな時だった。まるでワルツの想いが天に届いたかのように——、
「この辺で大きな魔力が……えっ?!な、何ですか?!これは?!」
——ハイスピアがやって来る。
そんな彼女の姿を見たワルツは、内心で歓喜した。それと同時にワルツは声を上げる。
「ハ、ハイスピア先生!そこから動かないで下さい!階段を降りると転んで死ぬかも知れません!」
「「「「「えっ……」」」」」
「……いや、事実よね?」
ハイスピアも慌てて階段を降りれば、マグネアの二の前になるのではないか……。そんな予感がして声を上げたワルツだったが、他の3人は違ったらしく、皆、ワルツの発言に、何とも言いがたい微妙そうな表情を見せていたようだ。
その後、ワルツたちは無事に、ハイスピアに対して意識の無い者たちの対応を任せることに成功した。その際、ハイスピア他、学院の教師たちから、当然のように「何故、皆、意識が無いのか」という質問が飛んできたが、一々、個別に説明していると面倒な上、いつまで経っても帰れなさそうだったので、ワルツはひっくるめて、こう返答したようだ。
「……冒険者を名乗る3人組の男たちが急に襲い掛かってきて、皆を襲った後、どこかへと消えていきました。私たちは怖くて怖くて……あの3人がいなくなるまで、机の影に隠れていたのです!」しれっ
と。
その際、ルシアたち3人が、何も言わずに口を押さえていたのは、今にも何かしらの言葉が口から出てしまいそうになっていたからか。
ワルツに限って言うなら、強ち嘘とも言えぬのじゃ。




