表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2578/3387

14.4-30 学生デビュー30

「いや……皆、頑張っているのに、私だけ見ているだけだったじゃない?直球で言うと、いるだけ邪魔、っていうの?だったら扉の隙間から見ていた方が良いかなって思って……」


 ミレニアと近衛騎士団長のバレストルを両肩で担いで、2人のこととズルズルと引きずりながら、ワルツが大講義室の階段を下ってくる。その際、バレストルの額が、階段の角にガンガンとぶつかっていたようだが、まぁ、激しいぶつかり方ではないので、大事には至らないことだろう。


 ワルツは階段の下まで降りてくると、言い訳を口にしながら、2人の事をそこに下ろした。その内、バレストルの方は、戦闘のせいで(?)傷だらけだったので、ルシアが回復魔法を行使する。


「お姉ちゃんのことを邪魔だなんて思わないよ?」


 ルシアがそう口にすると、アステリアも同調する。


「そうです!私だって、部屋に入っても、何も出来ませんでした」


「いや、アステリアは、傷ついた騎士たちのことを運んでいたじゃない?」


「それを言うなら、マスターワルツも同じです。マスターワルツは自分が邪魔と仰いましたが、気を失って危険に対処出来ないミレニア様を守ろうとしていたから、部屋に入ってこられなかったのではないですか?マスターワルツがミレニア様とバレストル様を廊下に放置していたら、もしかするとお二人は今頃、人質にされていたかも知れません」


「ま、まぁ……ね(ごめん、アステリア。そこまで考えていなかったわ……)」


 実際の所、ワルツは、自分に何も出来ないと考えて、部屋に入ろうとしなかったのである。機動装甲を失った今の自分に、いったい何が出来るのだろう……。そんな事を考えている内に、彼女の足は地面に縫い付けられたかのように止まってしまったのだ。


 それを知らないアステリアの表情は、ワルツにとって、とても眩しかった。


「さすがです!私なんて、ルシア様と一緒に部屋に入った後でミレニア様たちの事を思い出したダメな子です。もっと頭を使わないとです!」


「あ、うん……そ、そう……頑張って?(あ゛ー……なんか胸が痛むわ……)」


 ワルツはゲッソリとまではいかないが、複雑そうな表情を浮かべた。そんな彼女が何を考えているのか、ルシアもテレサも察していたようだが、2人とも空気を読んだのか、余計な事は口にしない。


 居たたまれなくなったのか、2人が何食わぬ顔で騎士たちの回復作業へと立ち去っていくと、必然的にワルツとアステリアがその場に残されることになる。一応、足下には、ミレニアやジョセフィーヌ、それに回復魔法を受けて元通りになったバレストルが横たわっているが、意識の無い彼らからは言葉が飛んでくる事はない。


 ゆえに、ワルツは、心の中で思う。


「(ルシアもテレサも逃げたわね!)」


 このまま黙り込んでいると、アステリアに褒め殺しにされるかもしれないと予想したワルツは、半ば必死になって話の話題を探す。そう、彼女は褒められることに慣れておらず、褒められると背中がむず痒くなってくるのだ。


 しかし、コミュニケーションに難のある彼女にとって、すぐに話題見つけるというのは難しく——、


「(アステリアと何を話せば良いのよ……)」


——と、内心で慌ててしまう。


 だからといって、ルシアたちの事を追いかけて、騎士たちの救助に出かけたところで何も出来なかったので、その場から逃げ出すわけにもいかず……。ワルツは、どうにかして、アステリアと会話をするための話題を探すしかなかった。


 そんな時、ワルツの頭に、ふと一つの疑問が舞い降りてくる。話題に連続性はなく、突拍子もない内容だったが、ワルツはアステリアに対して疑問をぶつけた。


「そういえばさ、アステリア」


「はい?」


「こういう時に聞くのもどうかな、って思うのだけれど……いえ、やっぱり一度、確認しておくべきだと思うのよ。私たちと一緒に行動していて、怖くない?せっかく自由なんだから、自分の故郷とかに戻りたいとか思わない?」


 ワルツは尤もらしく言い訳を考えて、アステリアに故郷に戻りたいかを問いかけた。このまま自分たちと行動を共にすれば今後、レストフェン大公国の敵対勢力からの襲撃を受けないとも限らないのだから、すべてを投げ出して故郷に帰りたいと思わないのか……。そんな副音声を込めてワルツが問いかけると、アステリアは頬を膨らませて激怒した。


「絶対に帰りません!たとえマスターワルツが自分を突き放そうとしても、地の底まで追いかけていきます!それほどまでに、今の私は満ち足りているんです!」


「そ、そう……(そういえば、今のアステリアみたいなことを言う人がもう何人かいたわね……)」


 そんなことを考えるワルツの脳裏に、数名の知人の顔が浮かんでくる。その際、ワルツは、ブルッと身震いしたようだが、何があったのかは不明だ。少なくとも、大講義室の中は寒くはない。


「でも、困ったわね……。ミレニアのことをジョセフィーヌに任せようと思ったら、ジョセフィーヌどころか、騎士たちもみんな気を失っているだなんて……。流石に学院長のことを呼びに行くしかなさそうね」


 アステリアの前を離れる良い口実を思い付いたと考えたワルツは、「じゃぁ私、学院長のことを呼びに行ってくるわ」などと言おうとして、しかし口を噤んだ。


 というのも——、


「こ、これは何事ですか?!」


——呼びに行こうとしていた相手が、大講義室へとやってきたからだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 2578/2578 >>> 彼女の足は地面に縫い付けられたかのように止まってしまったのだ。  ここ好き。なぜか覚えた [気になる点] アステリア、アステリオス、牛、斧を持った牛。 [一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ