14.4-25 学生デビュー25
「こういう時って、大抵、碌でもないことしかないのよね……経験的に」
「う、うん……」
「そうじゃの……記憶は無いが……」
「?」
ワルツとルシア、それにテレサの3人は、かつてミッドエデンであった悲惨な事件を思い出していた。旧ミッドエデン王国の前国王とその家族、そして政府高官たちが惨殺された事件である。その際、ミッドエデンの王都は、町全体が幻影魔法に包まれ、町の中に人が入るのを妨害したのである。それも今回のように、不思議と人を近づけないような特殊な効果によって。ワルツたちがその当時のことと、現状とを比較してしまうのは、自然なことだと言えた。
「まぁ、ジョセフィーヌたちが、他の学生たちを近づけまいとして幻影魔法を展開している可能性も否定出来ないから、まずは状況だけでも確認してみましょ?もしもこれがジョセフィーヌたちが展開した幻影魔法だったとすれば、故意に越えることで怒られるような事になるかもしれないけれど、私たちの場合は今さらだし、そんなには怒られないはずよ?きっと」
「うん」「うむ」
「あの……いったい何が……」
「ううん。大した事じゃないわ?前にちょっと幻影魔法で嫌な事があっただけよ?いつか機会があったら話すわね」
「は、はい……」
事情が飲み込めない様子のアステリアに対してそう言ってから。ワルツはルシアに代わり、一行の先頭を歩き始めた。その際、彼女は、腕に抱えていたミレニアを肩に担ぎ、開いた方の手でルシアの手を握った。一方、もう一人、幻影魔法が効かないテレサの方も、アステリアの手を握って進んでいく。人避けの幻影魔法の中で、耐性の無い者が目的地に辿り着くのは極めて困難なことだからだ。
一歩二歩とゆっくり進みながら、ワルツはルシアに対して問いかけた。
「大丈夫?ルシア。何かヤバいものが見えたら言ってね?」
「うん?ヤバいもの?」
「ユリアが使う幻影魔法みたいに、実体がありそうなやつ。私にはまったく知覚出来ないし、効果も無いから、何かあっても避けられないのよ」
「うん……。だけどそのときは——」
ルシアはそう言って後ろを振り向いた。するとそこには、アステリアのモフモフの手を、至極嬉しそうにニヘラという笑みを浮かべながら、ニギニギと握るテレサの姿が……。
「…………」じとぉ
「んあ?な、何じゃ?」びくっ
「……何でも」ぷいっ
そう言ってルシアは前を振り向くと、ワルツに対する返答を再開した。
「最悪の時は、多分、テレサちゃんが守って……ううん、テレサちゃんを盾にするから大丈夫」
「そ、そう……(そこ、言い直す必要あった?)」
ワルツはそう思うも、その質問を口にすることはなかった。理由は2つ。1つ目は、今ツッコミを入れると、藪蛇になる気しかしなかったことだ。どうやらワルツは、ルシア関連限定で、空気を読む力を身につけたらしい。
そして2つ目は——、
「あれよね。大講義室って」
——目的地である大講義室を見つけたためである。ワルツがそう口にするも、ルシアがボンヤリとして首を傾げていたのは、幻影魔法に囚われているせいで、意識に靄が掛かったような状態になっているせいだろう。止まっているなら影響は無いようだが、動くと影響を受けるらしい。もしかすると、単なる幻影魔法が展開されているだけだなく、精神に直接影響を及ぼすような精神魔法の類いも展開されているのかも知れない。
「(何か幻影魔法対策を考えないと拙いわね……。ルシアの思考が乗っ取られるとか、恐怖でしかないもの)」
エンチャントの魔道具の中に、幻影魔法を弾くような効果を付与する駒は存在しただろうか……。そんなことを考えながら、ワルツは大講義室の扉を——、
「……ごめん、テレサ。両手が塞がってるから、代わりに開けて?」
——両手が塞がっていたために開けられなかったので、後ろから付いてきていたテレサに開けるよう指示した。
そして——、
「では行くのじゃ?」ギギギギギ……
——テレサはそこにあった大きな扉を、手前に引っ張ったのである。
なんと、今日で二月も終わりという……。
もう、絶☆望しか無いのじゃ……。




