14.4-22 学生デビュー22
「「「…………」」」
「え、えっと……い、いや……これは事故なのじゃ!」
テレサは四つん這いになりながら、ミレニアを押し倒していた。もちろん、故意に彼女のことを押し倒していたわけではないが、端から見ると押し倒しているようにしか見えなかった。
事の発端は数十秒前に遡る。テレサが拡声器のような魔道具を使って、寮に引き籠もっている学生たちを解放した直後、まるで呼び寄せられるかのようにミレニアが現れて、タックルを仕掛けてきたのだ。特殊合金製の骨格を持つがゆえに体重が極めて重かったテレサは、ミレニアによるタックルの当たり所が悪く転倒してしまったのだが、転倒したのはミレニアも同じで、2人ともきりもみ状態になりながら揃って倒れ込んだのだ。
その結果、体重の軽いミレニアの方が先に倒れ込んだわけだが、彼女は何を思ったのかテレサを引っ張りながら倒れたので、テレサに押しつぶされる形になり……。結果、テレサはミレニアに覆い被さるように四つん這いになってしまった、というわけだ。なお、潰されたミレニアには意識は無く、重体の模様。
「……テレサちゃん、不潔。抵抗出来ない女の子を襲うとか、ホント最悪」
「は?!ちょっ?!まっ……」
「しかも、言霊魔法を使ったのに尻尾が元に戻ってるって、つまり、どさくさに紛れて、ミレニアちゃんとキスしたって事だよね?」じとぉ
「し、しておらぬ!そんなことしておらぬのじゃ!唇が偶然、ミレニア嬢の首に触れただけなのじゃ!ミレニア嬢の口に当たる事だけは、断じて回避出来たのじゃ!」
「……ほんとかなぁ?」
「間違いなく本当なのじゃ。なんだったら、DNA鑑定して貰っても構わぬのじゃ!いまここでワルツに誓っても良いのじゃ!」
「いや私に誓われても困るんだけど……」
追求してくるルシアを前に、テレサは必死になって否定する。ここで否定しなければ、色々と大切なものを失うような気がしたらしい。そう、色々と。
必死になって否定するテレサを前に、ルシアはようやく信じたようだ。彼女は気絶していたミレニアに近寄ると、その手首に手を添える。
「……うん。生きてはいる」
「そりゃそうじゃろ」
「テレサちゃんって重いから、ミレニアちゃんを押しつぶしちゃったんじゃないかって思ってたけど、潰れたカエルみたいにはなってなさそう。ほら、あのグロい感じ」
「何ということを想像しておるのじゃ……。まぁ確かに押しつぶすような形にはなったのじゃが、ちゃんと四つん這いになって、ミレニア嬢に圧力が加わらぬよう気をつけたのじゃ。意識を失っておるのは妾が押しつぶしたからではないのじゃ。妾が魔力を吸い取ってしまったせいなのじゃ?……多分の」
と口にするテレサの背中には、コルテックスに取り付けられたコウモリの羽のような魔道具がいまだ装着されたままで、ミレニアから魔力を吸収したせいか、パタパタと勝手に羽ばたいていたようである。しかも、相当量の魔力を一気に引き抜いてしまったらしく、そのせいでミレニアは意識を失ってしまった——というのがテレサの予想だ。所謂、急性魔力欠乏症である。
そんなテレサの言い訳を聞きながら、ルシアは念のために、ミレニアに対して回復魔法を行使した。その際、ルシアの回復魔法が、無駄に巨大な魔力で練られていて、ミレニアに当たった瞬間、彼女の身体をビタンッと地面に叩き付けていたようだが、誰もそのことを指摘しなかったのは自分の身の可愛s——いつものことである。
それでもミレニアは意識を取り戻さなかった。やはり、体内から魔力が一気に抜けてしまったゆえの気絶だったらしい。
ルシアによる治療を終えた後も意識を取り戻す気配の無いミレニアを前に、テレサは申し訳なさそうな表情を見せながら溜息を吐く。
「しかし、ミレニア嬢のおかげで助かったのじゃ。ア嬢やアステリア殿から魔力を吸い取らなくて済んだからのう」
「不潔!」じとぉ
「魔力を吸われていたら、私もこんな風に……」ぞわぞわぞわ
「……お、おっほん。では残りのタスクをこなすとするかの」
ルシアのジト目と、アステリアの発言をスルーして、テレサは再び拡声器型の魔道具を構えた。
そして、前もって話していたとおりに、ルシアとアステリアが耳に手を当てたのを確認した後で——、
「あー、あー。おっほん。"妾の声が聞こえておる者たちよ。今から30分以内の出来事をすべて忘れるのじゃ"」
——テレサは直前の言霊魔法の行使や、ミレニアとの事故、その他、様々な事柄について証拠隠滅を図ったのである。
これでようやく学園内に活気が戻ってくる——はずなのじゃ。




