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6前-02 シリウスからの言伝2

日も暮れて、いよいよ空が漆黒の闇に染まろうとしている頃。

険しい山道を松明(但し、LEDライト)を持って歩く4人(+1体)の影があった・・・。


「・・・寒い」


「それはそうだろう?ビクトール。お前だけ熱の通りがいい金属製の甲冑を纏ってるんだからな・・・」


急激に冷えてきた気温に、ガタガタと震える剣士と、モフモフなコートを纏った賢者が会話する。

ここに来る前に、ユリアたちと共に雪女がいることを、ワルツは2人に教えていたのだが、どういうわけか、防寒装備を身に着けていたのは賢者だけだったのだ。


「・・・へっくしょい!!」


・・・もちろん、剣士もそのことを忘れていたわけではない。

しかし彼は今まで、雪山であっても、灼熱の砂漠であっても、底なし沼のある湿原であっても、その愛用の甲冑を手放すことは無かったのである。

そして恐らく、これからもそれは変わらないだろう。

このままいけば、死のその瞬間まで、手放さないのではないだろうか。

・・・ただし、流石に日常生活においても着ている、というわけでは無かったが。


「バカよねぇ・・・」


そんな剣士の様子を見て、呟くワルツ。


「いいんだよ、バカでも!俺はこの相棒(甲冑)と共に冒険すると決めてるんだ!・・・ぐすっ」


「・・・風邪引いてカタリナの手間が増えても、同じこと言えるのかしら?」


ワルツの言葉に固まる剣士。


「・・・ニコル(賢者)、コート貸してくれ」


・・・どうやら、彼の脳裏で、ニッコリ、とカタリナが微笑んだらしい。

あるいは、ワルツの隣で無言のままオーラを放つテンポの気配を感じ取ったのかもしれない。


「馬鹿言うな。私が風邪引くだろう」


「お前、天使化したら寒く無いだろ?」


「そんな無駄なことで天使化するわけないだろう」


「あー、寒いっ!これで、風邪引いたら、ニコルがコート貸してくれなかったせいだな」


「・・・そうか。だが、カタリナのところに行って治療を受けるのは、お前だけだ。その後でどうなろうとも、私には関係ないのことだな」


「貴様・・・」


ぐぬぬぬ・・・と唸る剣士と、涼しい表情の賢者。


そんな2人のやり取りを横目に、ワルツ達が山道を歩いていると、


「あ、ワルツ様!」


シルビアが迎えに飛んできた。


「お出迎えご苦労さま」


「いいえ。ちょっと入り組んだ場所だったので、分からないかもしれないと思いまして」


「そう・・・。ユリアは?」


「先輩ですか?えっと・・・」


そう言いながら、難しい顔をして考えこむシルビア。


「雪女さんの近くから離れられないといいますか、何と言いますか・・・行けば分かると思います」


「面倒なことになってそうね・・・」


「いや、そういうわけではないんですけど・・・」


「・・・?」


どうやら複雑な事情(?)があるようである。

ともあれ、彼女の言う通り、行けば分かるのだろう。


「じゃぁ、案内してちょうだい」


「分かりましたっ!」


そういうと、シルビアはゆっくりと空を飛びながら、ワルツ達を案内し始めた。




そして、一行がやってきたのは、とある崖っ淵である。


「この崖の下です」


何やらモクモクと黒煙が吹き出している崖の下を覗き込んでいるシルビア。

・・・この黒煙を見る限り、例えシルビアの案内がなくても、どう考えても迷わず一直線にやってくることが出来るだろう・・・。

但し、ここにワルツがいなくて、辺りが明るかったら、という条件が付くのだが。


そしてワルツは、シルビアに合わせて、同じように崖の下を覗き込んだ。


「・・・うん。確かに説明が難しい状況ね」


見えてきた光景に納得するワルツ。

・・・なぜなら、


「うぅぅ・・・寒い・・・あ、ワルツ様!」


何やら黒煙を上げながら燃えさかる黒い液体で暖を取るユリアと、


「あぁ・・・暖かい・・・え?噂の方がいらっしゃったのですか?」


・・・何故か同じく暖をとっていた雪女らしき女性がいたからである。


シルビアと違って羽に羽毛が生えていないユリア(サキュバス)は、恐らく寒さに弱いのだろう。

火元から離れすぎると、寒さに耐えられなくなる、といったところだろうか。


・・・しかし問題は、雪女の方である。

果たして、暖を取っている彼女は、本当に雪女なのだろうか。


そんな疑問を浮かべつつ、ワルツは、シルビアを除いた仲間たちを宙に浮かべて、崖の下へと降り立った。

その際、初めてワルツの姿を見た雪女が、文字通りフリーズしていたが、いつも通りのことなので、誰も気にする様子はなかった。


「こんばんわ。お二人さん。今日は随分と冷えるわね・・・」


全く寒くはないのだが、眼前に表示されている外気温を頼りに、そう口にするワルツ。

・・・そして彼女は、どういうわけか、燃えさかる黒い液体に、躊躇することなく真っ直ぐに突入していった。


『えっ?!』


ワルツの奇行に唖然とする一同(但しテンポは除く)。


「こんなところに石油が湧き出る場所があったなんて・・・。でかしたわよ!ユリア、シルビア!」


「えっ?あ、はい。ありがとうございます!(あれ?・・・じゃぁ、私が持ってる液体って何?)」


「ありがとうございます・・・っていうか、熱くないんですか、ワルツ様?」


誰もツッコまなかったので、恐る恐る聞いてみるシルビア。


「え?何が?」


「いや、だって、燃えてるじゃないですか?」


「あぁ・・・。えーとねぇ・・・1200度ですって。まぁ、大した温度じゃないわ」


「ふーん・・・その程度の温度だったんですね」


・・・ほぼ間違いなく、シルビアは1200度という温度がどの程度のものなのか理解していないことだろう。

このまま放っておいたら、ワルツに付いて、燃えさかる石油の中に飛び込んでゆくのではないだろうか・・・。


そうなる前に、ワルツは重力制御を使って、飛び込んだ石油の表面から空気を排除して鎮火させる。

そして、湧き出ていた石油を可能な限り宙に浮かべた頃、


「あっ・・・」


ワルツの登場によって、固まっていた雪女が、ようやく我に返った。


「あ、あのっ・・・!」


胸の前で手を組みながら、ワルツに声を掛ける雪女。


「ぼ、ボク、ユキと言います。ミッドエデンの代表の方に、魔王シリウス様から預かった信書をお届けするために参りました!」


(何の捻りもない、そのままの名前ね・・・)


妙に目を輝かせながら自分を見上げてくる雪女に、そんな感想を持つワルツ。

彼女の家系では、代々子どもに、寒いか冷たそうな名前でもつけているのだろう。


放っておくと、彼女もワルツのことを『魔神様』などと崇めだしそうなので、ワルツは事前に手を打っておくことにした。


「えーと、ミッドエデンのいち市民をしてます、ワルツです」


『えっ?』


仲間達から異論の声(?)が上がる。


「いや、本当のことじゃない?それとも、私が何か役職に着いているとでも?」


「確かにそうかもしれないですけど、今、ワルツ様が居なくなったら、ミッドエデンは立ちゆかなくなるではないですか」


とシルビア。


「大丈夫よ。コルテックスやアトラス、それにストレラやカノープス、他にもテレサや勇者だっているじゃない。最悪、テンポに任せてもどうにかなるわよ」


「嫌です」


即答するテンポ。


「・・・なんで即答するわけ?」


「面倒です」


「・・・」


性格は違うが、やはり姉妹らしい考え方をしているようである。


「えっと・・・あのー?」


完全に置いてけぼりを食っていた雪女(ユキ)が声を上げる。


「あ、ごめんさいね。まぁ、国の代表じゃないけど、プロの市民として話くらいなら聞いてあげるわよ?」


・・・ただし、所謂『プ□市民』とは違うということを明記しておく。


「・・・」


ワルツの『代表ではない』発言に、どこか悲しそうな表情を浮かべるユキ。

すると彼女は直ぐに、難しい表情を浮かべながら口を開いた。


「・・・申し訳ございませんが、シリウス様には、ミッドエデンの()()()見せるようにと申し付けられておりますので・・・」


「国王、ね・・・」


そう言ってから、誰にも分からないように溜息を吐くワルツ。

そして、ユリアの方に視線を向けて言った。


「貴方の元仲間達は、まだミッドエデンが共和制になったことを知らないのかしらね?」


「そのようです。例の一件で王都にいた諜報部隊は全滅しているので、情報が伝わってなくてもおかしくはありませんからね・・・」


つい数カ月前のことだが、ずいぶん昔のことのようにして思い出すユリア。


「無線機があれば、簡単に伝わりそうな情報なんだけどね・・・」


「情報伝達のための技術が発達しているわけではないので、普通はそんなものですよ」


そう言いながらユリアは、ワルツにもらった無線機が入っているだろうバッグに、大事そうに手を置いた。


「・・・というわけなのよユキさん。私達のミッドエデンに王様はいないのよ。似たような役職だと、議長かしらね」


「・・・では、その議長様にお会いさせていただけないでしょうか」


「えぇ。構わないわよ?」


と、特に彼女が本当にシリウスの使いかどうかを確認せずに、2つ返事で了承するワルツ。

例え彼女が刺客であっても、今の議長(コルテックス)はそう簡単には殺されないのである。


だが、そんなワルツの態度に、ユキは逆に不信感を持ったようであった。

そもそも、自称『いち市民』であるはずのワルツが、勝手に国のトップとの引き合わせを約束したのである。

信じられなくて当然だろう。


「あの・・・嘘じゃないですよね?」


ワルツ達に付いていったら、いつの間にか奴隷として売られていた、などということになるかもしれない。

そう思ったようである。


「えぇ。もちろんよ?・・・って言っても、信じられないでしょうけどね・・・。ま、付いてくるか来ないかは貴女に任せるわ。『エネルギア!』」


『はーい。いまいくね』


ワルツが空に(無線通信システム)向かって声を上げると、エネルギアから返事が戻ってくる。


・・・そんなワルツの声に、


「さっき来たばかりで、もう帰るのか?」


思わず確認する剣士。


「いや、だって、ユキさんに会えたし、石油も回収できたし、他にやることあるの?」


「・・・無いな。でも、なんか勿体無い気がするんだよな・・・」


「まぁ、気持ちは分からないでもないけど、私だってやることが山のように残ってるんだし、今回は仕方ないわよ」


「それもそうか・・・。確かに、こんな山の中じゃ、狩り以外にやることがないしな。(あね)さんがいない狩りほど、面倒なものはないからな・・・」


・・・その口振りだと、剣士にとって狩りは面倒なもので、そんな面倒な狩りをいつも狩人に任せている、ということになるのではないだろうか・・・。


そして、ワルツと剣士が話していた数十秒の間に、


ドゴォォォン!!


爆音を立てて、エネルギアが移動してきた。

・・・着陸はもちろん、地面への刺突(墜落?)である。


「ひぃっ?!」


エネルギアそのものと、その着陸方法を知らないユキが、突然の爆音に(ひる)む。


「うん、久しぶりの反応ね。こういう反応を大切にしたいところなんだけど、最近、みんな慣れちゃったせいで、新しいことをしても、イマイチ反応が薄いのよね・・・」


「そうですね・・・。つい先日までは、ユリア様やシルビア様も同じような反応を見せていらっしゃったのですが・・・慣れというものは寂しいものです」


ワルツの独り言に言葉を返すテンポ。


「いや・・・何度見ても、慣れないって・・・」


「そうか?ビクトール。私にはお前が一番慣れてるように見えたんだが・・・」


「いや、そんなこと、あるわけ無いだろ・・・」


剣士と賢者がそんなやり取りをしていると、


『ビクトールさーん!』


ドゴォォォ!!


「ぐへぇっ?!」


・・・嬉しそうに飛行艇から走ってきたミリマシンの群れ(エネルギア)が、剣士を轢殺(?)した。


「ひぃっ?!」


その様子をTVで放送したら、BPOに警告を受けそうな状態になった剣士の姿に、再び怯むユキ。


「あっ、気にしないで?いつものことだから」


「えっ?!」


「こんなことしてると、いつまでたっても帰れないから、さっさと行くわよ?」


そしてワルツは、ミリマシンまみれになりながら地面に転がる剣士から眼を(そむ)けると、先頭を切って、エネルギア(飛行艇)へと戻っていったのであった・・・。


ぬぬ・・・?妾の地位が脅かされる予感がするのじゃ・・・

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